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インターネットルータの宛先検索と同じ仕組みを光パケット交換システムで実現

March 4, 2014

独立行政法人 情報通信研究機構
ルネサス エレクトロニクス株式会社

 

【ポイント】

■ 光パケット交換システムの実用化に不可欠な宛先検索を実装した光パケットヘッダ処理装置を開発

■ ルータに使われているLSI技術と比べ、宛先検索処理で20分の1、統計情報処理で5分の3の省電力LSIを搭載

■ 将来のネットワークを支える光パケット交換システムの実用化の加速が期待

 

 独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長: 坂内 正夫)とルネサス エレクトロニクス株式会社(以下「ルネサス」、代表取締役会長兼CEO: 作田 久男)は、将来の高速・低消費電力ネットワークの中核装置として期待される光パケット交換システム *1の実用化に不可欠な、現在のインターネットルータの宛先検索 *2と同じ仕組みを実装した光パケットヘッダ処理装置を開発し、IPアドレスを利用した光パケット交換実験に世界で初めて成功しました。

 今回開発した光パケットヘッダ処理装置は、光パケットの宛先検索と通信トラフィックの統計情報 *3蓄積の2種類の高速・省電力LSIを搭載しており、光パケット交換システムの一層の省エネ化を実現しました。インターネットのIPアドレスを利用した光パケット交換が可能となったことで、光パケット交換システムの実用化が加速することが期待されます。

本成果は、NICT光ネットワーク研究所のフォトニックネットワークの研究成果と、ルネサスがNICTから受託した「高度通信・放送研究開発委託研究」との連携成果です。

 

 インターネットでは、光ファイバで高速伝送された光信号が、ネットワークの分岐点であるルータで、すべて電気信号に変換され、宛先別に振り分けられ、再び光信号に戻されて光ファイバで伝送されます(補足資料 図1)。宛先別振り分けのために光電変換を繰り返すことと、年々増大する情報量に対応するための高速交換処理の必要性から、ICT機器の全消費電力の7分の1を占めると言われているルータの省電力化が求められています。
 交換処理を光信号のまま行うことで、高速・低消費電力を実現する光パケット交換システム(補足資料 図2)の実現に向けた研究開発が進められていますが、パケットを宛先別に振り分けるための宛先検索処理やパケットの種類・量を蓄積する統計情報蓄積処理、パケット伝送の経路制御などのネットワーク制御処理が複雑になるという課題がありました。NICTでは、ルネサスと連携し、こうしたネットワーク管理を簡便化するための制御処理について研究開発を進めてきました。

 

【今回の成果】

 NICTとルネサスは、世界で初めて、インターネットルータの宛先検索と同じ仕組みを実装した光パケットヘッダ処理装置を開発(補足資料 図4)し、光パケット交換実験に成功しました(補足資料 図5)。

 今回の実験では、宛先検索だけでなく、交換に必要な宛先情報にインターネットと同じアドレス体系を利用していることから、インターネットとの親和性が高く、大規模ネットワークへの対応が可能であり、光パケット交換システムの実用化が加速されるものと期待されます。

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今回開発した光パケットヘッダ処理装置内部

 今後NICTは、ネットワークの経路制御機能について研究開発を進め、光パケット交換システムの機能向上を図ります。ルネサスは、光パケット交換システムを組み込んだインターネットを高速かつ低消費電力で支える新しいLSIを開発してまいります。さらに、両者でIPv6インターネットへの実用化を視野に、宛先検索機能の高度化や経路情報処理の効率化による一層の省電力化を進めます。

 なお、本研究成果について、平成26年3月7日(金)に、宮崎市で開催される「電子情報通信学会ネットワークシステム研究会」で発表します。

 

【主な役割分担】

<NICT>

  • ネットワーク全体設計と光パケット交換のための光システムの開発
  • 光パケットヘッダ処理装置の開発

<ルネサス>

  • 高速・省電力宛先検索LSIの開発

    100Gbpsで送信されたパケットの宛先検索性能

    既存のTCAM*4技術と比べ20分の1の消費電力

  • 宛先検索からスイッチ制御までの電子回路の開発
  • 高速・省電力統計情報蓄積LSIの開発

    従来のSRAM*5製品の5分の3の消費電力

以 上

 

補足資料

 

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図1 インターネットルータの内部構造

インターネットルータでは、すべての光パケット信号を電気信号に変換し(1)、パケットの宛先IPアドレスと経路表とを照合することで、適切な出力回線を決定し(3)、パケットデータを適切な出力回線に振り分けます(4)。その後、再度、電気信号を光信号に変換します(6)。

 

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図2 光パケット交換システムの内部構造

 

光パケット交換システムでは、宛先情報等を含む一部の光信号のみを電気信号に変換し(1)、パケットデータは、光信号のまま適切な出力回線に振り分けます(3)。電気信号を用いた処理や光電変換処理を減らすことができるため、交換処理の高速化や省電力化が可能となります。

 

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図3 今回実装した宛先検索処理方式と従来方式

 

 

<ネットワーク管理が簡単な今回実装した宛先検索方式 (図3左)>

  • 光ネットワークの宛先IDに宛先IPアドレスの一部をコピーして使用
  • 最長一致検索*6に従い、宛先ネットワークアドレス*7を利用した経路表を検索(インターネットルータの宛先検索と同じ仕組み)

 

<ネットワーク管理が複雑な従来方式 (図3右)>

  • IPアドレスに対応する光ネットワーク内での固有IDを管理・付与
  • 全体一致検索*8に従い、経路表を検索

 

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図4 光パケット交換システムの動作結果

 


ヘッダ処理装置への組込みに成功した宛先検索LSIと統計情報蓄積LSIは、 いずれも40nm eDRAM*9プロセスを用いて製造しました。主な特長は以下のとおりです。

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図5 光パケット交換システムの動作結果

 

 

宛先IPアドレスを利用した検索により、光パケットデータが適切な出力回線に振り分けられ出力されました。

宛先IPアドレス 光スイッチ制御信号 光パケットスイッチの結果
出力回線 出力回線
10.48.1.10 1 1
10.51.1.30 2 2
10.51.3.50 4 観測できない(注)

(注) 出力2回線の光スイッチのため、宛先IPアドレス10.51.3.50の出力は観測できない。

  • 実験に用いたIPパケット
宛先IPアドレス パケット長 (バイト) 光ネットワークの宛先ID**
10.48.1.10 500 48.1
10.51.1.30 1500 51.1
10.51.3.50 4500 51.3

** IPアドレスの9ビット目から24ビット目をそのままコピー
(インターネットで実験用に自由に使える10.X.X.X (Xは任意) のプライベートIPアドレスを用いたため、先頭の8ビット(10進数10)は使用せず、今回は9ビット目からをコピー)

 

 

  • 光スイッチ(図5

入力2回線、出力2回線

 

 

  • 最長一致検索に従った経路表(図5

光パケットのアドレス16ビットに注目し、宛先が2進数表記で00110011 00000011 (10進数ドット表記*10で51.3) となるパケットは出力回線4番にスイッチされる、それ以外の先頭8ビットが 00110011 (10進数で51、残り8ビットは何でもよい)となるパケットは出力回線2番にスイッチされる、さらに、それら以外で先頭4ビットが0011 (残りの12ビットは何でもよい)となるパケットは出力回線1番にスイッチされる、という最長一致検索に従ったパケット転送をする設定を宛先検索LSIに書き込みました。

 

<用語 解説>

*1  光パケット交換光ファイバ上の光パケットを電気信号に変換せず、光スイッチの高速切替えにより光パケットを転送。従来のパケット交換方式と比べて飛躍的に多くの情報を効率的に転送可能であるが、極めて高度な光信号処理が必要となる技術

*2  インターネットルータの宛先検索パケットに含まれる宛先アドレスを読み取って、ルータ内の経路表を検索して、該当するパケットをどの回線に出力するかを決める手続き

*3  統計情報ネットワークの状況に応じた経路制御などのために利用する、回線ごとの到着パケット数や出力パケット数、内部衝突パケット数、宛先アドレスごとに通過した光パケット数などの情報

*4  TCAM (Ternary Content Addressable Memory)ネットワークの情報検索に使用されるネットワーク用メモリ

*5  SRAM (Static Random Access Memory)定期的な記憶保持動作が不要な半導体メモリ

*6  最長一致検索1と 0と x ( 0又は1のどちらでも良い) から構成されるビット列が複数登録されたシステムに対し、検索キーに対し正しく一致するビット列の中からxの数が最も少ないビット列を探し出す方式。 例) 16ビットの検索キー00110011 00000011に対して、a) 00110011 xxxxxxxx, b) 00110011 000000xx, c) 00110011 00000010 の三つがビット列として登録されている場合、a) b) が検索にマッチし、xの少ないb) が最終的に答えとなる。 インターネットのルータでの宛先検索に使われる場合、検索キーが宛先IPアドレス、ビット列が経路表に保存された各エントリの情報となる。上記a b) c) の例のようにすると、00110011で始まるビット列に対するエントリ数が三つで済む。このように、最長一致検索を用いると経路情報を集約できる。

*7  宛先ネットワークアドレスデータ送信先のIPアドレスの集合を示す。10.0.0.0/8 のように使われ、この例の場合、最初の8ビットが10 (2進表記で00001010)であるIPアドレスの集合を表す。10.51.3.0/24 であれば、最初の24ビットが10.51.3 であるIPアドレスの集合を表す。

*8  全体一致検索検索キーと全く同じビット列を探し出す方式。 すべての経路情報を登録する必要があり、最長一致検索(*6)の例の場合、00110011 00000000~00110011 11111111まで256個のエントリが必要となる。このように、経路情報を集約できず、大規模ネットワークでは実用的ではない。

*9  eDRAM(Embedded Dynamic Random Access Memory)DRAMを混載したロジックプロセス。通常のロジックプロセスで使われるSRAMメモリに比べ集積度が高く、SRAMと同等の速度でありながら電源からのリーク電流を削減できるため、低消費電力化に適している。

*10  10進数ドット表記10進数をドットで区切って表記する方法。1.2.3.4や50.100.150.200等。インターネットのIPv4アドレスを表記するために用いられる。

 


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