お待たせしました。ルネサスが提供するR-IN32M3モジュールがついにEtherCAT®の対応を開始しました。ハードウェアはそのままに、ファームウェアを更新するだけで従来のPROFINET、およびEtherNet/IPTMに加え、EtherCATという主要な3つのプロトコルに対応することができるようになります。
そこで今回は、このR-IN32M3 モジュールを使ったEtherCAT対応製品の開発について紹介します。
EtherCAT®とは
EtherCAT®はドイツの Beckhoff Automation社によって開発されたオープンなフィールドネットワークで、「EtherCAT Technology Group(ETG)」によって管理・運営されています。IEEE 802.3で規定されたEthernetフレームに、独自のデータフォーマットを載せたプロトコルで、最大の特徴はオンザフライ方式による高速、高効率な通信方式にあります。マスター機器から送られたパケットデータはイーサネットケーブルで接続した各スレーブ機器へ順番に伝達され、折り返してマスターに戻ってきます(Figure 1)。この行って帰ってくるまでの1サイクル中に各スレーブはパケットデータの該当箇所に直接データの読み書きを行います。
この独自の通信方式を実現するためEtherCATスレーブ機器は専用のハードウェアが必要となりますが、R-IN32M3モジュールは、ESC(EtherCAT Slave Controller)を内蔵したR-IN32M3-ECと専用のプロトコルスタックにより、簡単にEtherCATスレーブを実現することができます。
Figure 1 EtherCAT通信
R-IN32M3 モジュールとは?
ルネサスでは様々な産業イーサネット対応製品を発売していますが、小ロットのプロジェクトなどではLSIから作るには開発期間、コストが合わない、という声も多くありました。R-IN32M3モジュールはそんな声にお応えした製品です。ホストマイコンとSPI通信で接続することで、簡単に産業イーサネットに対応した機器を開発することができます。
<特徴>
- オールインワンでコンパクト
- 主要3種の産業用ネットワークを内蔵
- 開発環境も充実
Figure 2 R-IN32M3モジュール
従来のPROFINETおよびEtherNet/IPに加え、今回新たにEtherCATに対応したことで、産業イーサネットのおよそ3/4を占めると言われている主要な3つのプロトコルにR-IN32M3モジュールが対応できるようになりました。ルネサスホームページよりダウンロードした最新ファームウェアに更新することで、ハードウェアはそのままでEtherCATにも対応することができます。
EtherCAT対応製品の開発 ~ EtherCAT対応が2ヶ月で可能に!?
EtherCATの場合はプロトコル処理の多くを専用ハードウェアが行うため、比較的短期間で通信動作を実現することはできますが、それでも認証テストを通すまでにはおおよそ半年から1年程度はかかります。R-IN32M3モジュールを使えばこれを2~6ケ月程度に短縮することもできます。
Figure 3は一般的な産業イーサネット機器の開発と、R-IN32M3モジュールを使った開発にかかるコスト(期間・費用)イメージを示しています。
Figure 3 開発コストイメージ
以下、それぞれの開発ステップについて見ていきましょう。
ハードウェア設計
まずはボード開発です。R-IN32M3モジュールは、EtherCATで必要な2ポートのRJ-45コネクタとその周辺回路が全て内蔵されています。EtherCATで必要なESC (EtherCAT Slave Controller)やEEPROMもモジュールに内蔵していますので、お客様のホードは、9ピンのシリアル通信(SPI)コネクタとホストマイコンを接続することと、EtherCATで必要なLEDやID選択スイッチ回路を追加するだけで大丈夫です。
イーサネットのコンプライアンステストを考慮した回路設計となっていて各種の信頼性試験も実施済ですので、大幅なコスト低減が期待できます。 (詳細はユーザマニュアルハードウェア を参照してください。)
Figure 4 ブロック図
プロトコルスタック実装
R-IN32M3モジュールの最大の特徴でもありますが、プロトコルスタックはモジュールのファームウェアに全て含まれています。プロトコルベンダからの購入も不要となることは大きなコストメリットとなります。
また、概ね年1回のプロトコル規格の更新に伴いR-IN32M3モジュールのファームウェアは無償アップデートしていく予定です。プロトコル更新によるメンテナンス費用も含めた総コスト(TCO:Total Cost of Ownership)を抑えられることも大きなメリットですね。
アプリケーション開発
ホストマイコンのファームウェアについては、ルネサスから提供のサンプルソフトをハードウェア仕様に合わせて移植します。ホストマイコン用サンプルソフトの全体の流れをFigure 5に示します。ユーザーアプリケーションを appl_loop() にコーディングするシンプルな構成です。
Figure 5 サンプルプログラムの流れ
プロトコル認証
EtherCATに限りませんが、産業イーサネットプロトコルの対応製品を謳うためには、お客様の製品構成でプロトコル協会の認証を取得していただく必要があります。そのためには一定のノウハウも必要となってきますが、R-IN32M3モジュールはソリューションキットとSK-S7G2スタータキットを組み合わせた構成でETGの認証を取得済ですので安心です。ETGより提供されているCTT(Conformance Test Tool)を使用して事前に確認することで、労せずパスすることができるでしょう。
まとめ
R-IN32M3 モジュールによるEtherCATスレーブ機器開発について説明しました。
R-IN32M3モジュールはPROFINETおよびEtherNet/IPも含めたマルチプロトコル対応であることも大きな特徴となっています。つまりハード構成を一切変えずに複数のプロトコルに対応した製品を作ることも可能です。まずは是非ルネサスホームページにアクセスしてみてください。
関連Link
R-IN32M3-Module
R-IN32M3-Module-Solution-Kit