USB PD 徹底解説:5 of 5
USB PDは、注意深く練り上げられた規格により安全性と利便性を実現しています。そのため、USB PD対応製品を作るときは、規格の詳細までを読み込み、理解した上で製品に反映させなければなりません。これは、なかなか大変なことです。でも、ご安心下さい。ルネサスが提供するソリューションを使えば、簡単にUSB PD対応の製品を作ることができます。
USB-C Powerソリューションを実現
前回までに、USB Type-C®とUSB PD規格がどのようなものなのかを説明しました。
安全が十分に考えられた上に利便性も高く、高いフレキシビリティを有するUSB Type-CとUSB PDですが、導入するとなると、複雑でなかなか大変です。例えば、単に受給電技術のみの採用を考える場合、高いフレキシビリティを的確に使うためだけに、USB Type-CとUSB PDの規格を十分理解する必要があるということは、採用のハードルを著しく上げているだけでしょう。また、安全性確保のために過電圧、過電流、過熱状態を常に監視し、異常時には規格に定められた処理をしなければなりません。
この課題を解決して、簡単にUSB PDを導入した製品を作れるように、ルネサスではUSB PDコントローラIC、電源IC、電池管理用ICなどを組み合わせたUSB-C Powerソリューションと呼ぶターンキー・ソリューションを用意しました。ここで、USB PDコントローラICは、USB PDの必要な通信や制御を担当します。電源ICはパワールールで供給が決められている電圧(5V、9V、15V、20V、28V、36V、48Vなど)を入出力できる高効率のものになります。電池管理用ICはフューエル・ケージICと呼ばれる電池の状態管理を行い、リチウムイオン蓄電池の安全性を確保するためのものになります。このUSB-C Powerソリューションを採用するだけで、簡単にUSB PDを導入した製品を設計することができます。また、製品のハードウエア設計の負担軽減と同時に新たなファームウエア ソリューションを提供することで設計全体の負担軽減に努めています。
製品企画から開発ステップ
ここでは、開発ステップから見たルネサスのUSB-C Powerソリューションの可能性について解説したいと思います。
USB-C Powerの導入にあたっては、製品企画の段階で、電力の供給パターンを確定させることになります。電力の供給パターンとは、すなわち、開発する製品が給電側(ソース:ACアダプタやDC/DCモジュールなど)なのか、受電側(シンク:各種機器の受電部分など)なのか、あるいは受給電両対応(DRP:HUB、Power Bankなど)なのかになります。これと同時に、対応する電圧・電流の値(ソースなら給電能力、シンクなら受電要求)が決定されるでしょう。
ルネサスでは、給電、受電、受給電両対応それぞれのUSB-C Power ターンキー・ソリューションを準備しています。お客様は、所望の仕様に近いルネサスのUSB-C Powerソリューションを選択することで、簡単にUSB-C Powerの採用ができるようになっています。
実際の開発においては
Step 1: 所望のUSB-C Power ターンキー・ソリューションを入手
基板開発に必要なデザインキット(取扱説明書、回路図、部品表、レイアウト情報)はRenesas.comからダウンロードいただけるようになっています
Step 2: USB-C Power ターンキー・ソリューションが所望動作できるか検証
USB-C Power ターンキー・ソリューションの評価ボードに搭載されているUSB-PD関連のコントローラには、USB-PD動作の核となる基本ファームウエアが事前に搭載されています。このため、単にボード上のスイッチを設定するだけで、多くの動作を実現することができるようになっています。スイッチ設定のみでは実現できない動作は、動作パラメータをカスタマイズしたファームウエアの更新の必要ですが、簡単に開発できるソフトウエア ソリューションとして「VIDWriter」を用意しています。
Step 3: デザインキットを参考にしてUSB PDを組み込んだ実基板を開発
デザインキットに含まれる回路図、部品表、レイアウト情報を参考に実製品にUSB PD機能を追加
Step 4: 事前評価したファームウエアを実基板上のUSB-PD関連のコントローラに書き込み、動作を確認
Step 2で評価したファームウエアをStep 3で開発した実基板上のUSB-PD関連のコントローラに書き込みます。ファームウエアを書き込んで、希望通りの動作を確認できれば完成
デザインキットにある回路図、レイアウト情報はルネサスで開発し、動作を確認したものです。使用するICのマニュアルを見ながら回路図を描き、基板パターンを起こす手間を考えると、デザインキットの利用で、大幅に工数を節約できます。
ルネサスのUSB-C Powerソリューション
ルネサスでは以下のようなUSB-C Powerターンキー・ソリューションを準備しています。これ以外にも開発中のターンキー・ソリューションがありますので、お問合せいただければ幸いです。
受給電 | 機能 | リファレンス | 概 要 |
---|---|---|---|
受電 | 入力電源変換装置 | RTK-251-SinkAdapter | USB Type-C入力電力を所望のDCに変換する シングル ポート 入力変換デザイン |
給電 | DC入力モジュール | RTK-251-BuckBoostConverter2 | DC入力をUSB Type-C出力に変換する デュアルポートのUSB 認定 デザイン |
受給電 | リチウムイオン蓄電池ピュア Power Bank | RTK-251-PowerBank3 | シングル ポート 2~4直セル(デフォルト 3セル)のPower BankのUSB認定デザイン |
受給電 | 入出力変換装置 | RTK-251-DRPEVB | DC入力をUSB Type-C出力に、供給されるUSB Type-C入力電力を所望のDCに変換する シングル ポート 入出力変換デザイン |
受給電または受電 | バッテリーシステム | RTK-251-SinkCharger-ISL9238C | USB Type-Cポートからの受電のみのモードとBMS付きリチウムイオン蓄電池との組み合わせでPower Bankを実現するモードをサポートするシングル ポート 2~4直セルのバッテリーシステム |
受給電または受電 | バッテリーシステム | RTK-251-SinkCharger-RAA489118 | USB Type-Cポートからの受電のみのモードとBMS付きリチウムイオン蓄電池との組み合わせでPower Bankを実現するモードをサポートするシングル ポート 2~7直セルのバッテリーシステム |
受給電 | 機能 | リファレンス | 概 要 |
---|---|---|---|
受給電または受電 | 140Wバッテリーシステム | RTK-G015-EPRSinkCharger-140W | USB Type-Cポートからの受電のみのモードとBMS付きリチウムイオン蓄電池との組み合わせでPower Bankを実現するモードをサポートするシングル ポート 2~7直セルのバッテリーシステム |
Instruction tool 「VIDWriter」
ルネサスのUSB-C Powerソリューションの一部として提供しているInstruction tool 「VIDWriter」は、最終製品用のファームウエアの生成と同時に、USB-C Power ターンキー・ソリューションの評価ボードに搭載されているスイッチの設定方法をわかりやすく解説するためのツールにもなります。
図1のフィールドBで基本機能を選択すると、所望の機能を実現できるボードがフィールドDに表示され、合わせて、ボードへの電圧や電流値など設定可能な項目がフィールドEに表示されます。この例では、フィールドDにバッテリ・システム・リファレンスが表示されています。ここで、フィールドEで、直列接続している電池の数と最大電流を設定すると、それに連動してフィールドDに示されているボードで設定すべきスイッチの値が変化するようになっています。お客様は、実ボードの対象スイッチを画面のようにセットすることで所望の動作を確認する準備ができます。このツールでは、事前に搭載されている基本ファームウエアの更新は必要ですが、バッテリーの基本パラメータ(Full, Emptyの値)を変更したファームウエアを生成することも可能です。
ご覧のように、このツールでは必要な動作と電圧等のパラメータを設定するだけで簡単にUSB-PDの機能を実現できるようになっています。また、このツールでは図2のように要求仕様にあわせた回路図上の要求抵抗値も表示できるようになっています。
最新 USB-C Powerソリューションは設計資料に含まれるデザインキットとVIDWriterによって簡単に採用できるようになっている一方で、もともと持っていた自由度に関しては意図的に制限を掛けています。例えば、PDコントローラR9A02G011の未使用の端子にLED制御機能を割り当てたいとかの要求にも応えるとはできるようになっています。個別にお問合せいただければ幸いです。
USB PD 徹底解説
- 便利さを増すUSB給電
- USB PDの技術 1〜安全と利便性を実現する技術〜
- USB PDの技術 2〜USB Type-Cとロール・スワップ〜
- 規格で守るUSB PDの安全性
- ルネサス のソリューションにUSB PDはお任せ!
用語・略語
- AVS: Adjustable Voltage Supply/アジャスタブル・ボルテージ・サプライ。9V以上の任意の出力電圧を100mVステップでシンクが指定できる規格。PPSに近い規格
- COLD Socket: コールド ソケット。USBコネクタのVBUSに電圧が印加されていない状態
- DFP: Downstream Facing Port。主にPCが備えるポートで、データ通信のイニシエータ側
- DRD: Dual-Role Data。DFP又はUFPのどちらにもなれるポート
- DRP: Dual-Role Power。 Source 又はSinkのどちらにもなれるポート
- EPR: Extended Power Range on Power delivery。20V 5A を超えるDC給電を実現するモード
- PDコントローラ: TCPMとTCPC の両機能を一つのパッケージに収めたもので、USB PDの必要な通信や制御を担当
- PDP: PD Power/PDパワー。Source出力電力。パワールールで使用
- Power Rule: パワールール。「ソースの電力値(Wattの値)≧ シンクの電力値(同)」ならば、動作することを保証するための機器設計ルール
- PPS: Program Power Supply。任意の出力電圧を20mVステップ、出力電流を50mAステップでシンクが指定できる規格。
- Sink: シンク。ハンドヘルド装置のように受電する側の装置
- Source: ソース。ACアダプタのように給電する側の装置
- SPR: Standard Power Range on Power delivery。20V 5A以下のDC給電を実現するモード
- TCPCI/TCPC: USB Type-C Port Controller Interface/ USB Type-C Port Controller。USB-PD通信に必要なローレベルのハードウエア部分のみを定義したもの(TCPC)とそのデバイスとの通信仕様(TCPCI)。TCPMと組み合わせてPDC機能を実現
- TCPM: USB Type-C Port Manager as described in TCPCI。TCPCを制御するデバイスもしくはシステム
- Type-C: USBで定義されているコネクタ。上下左右反転挿しが可能
- UFP: Upstream Facing Port。主に周辺機器が備えるポートで、データ通信の応答側
- USB: Universal Serial Bus
- USB-C: Universal Serial Bus Type-C®
- USB-IF: Universal Serial Bus Implementers Forum。USB関連の規格を策定する団体
- USB-PD: Universal Serial Bus Power Delivery
- USB PDコントローラ: PDコントローラと同義