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USB PDの技術2 ~USB Type-Cとロール・スワップ〜

USB PD 徹底解説:3 of 5

USB Type-C® レセプタクル

USB Type-Cは利便性のさらなる向上のため、上下対称なデザインで、ホスト側もデバイス側も共通に使用できるような仕様になっています。このため、図1のように、上下反転挿入(フリッバブル)が実現できるように12ピンの配線が2ペア含まれる構成となっています。USB Type-Cレセプタクルには、従来のUSB信号群とは別に、機器管理に関する通信専用の信号ライン(CC: Configuration Channel)とオルタネートモードやUSB4専用の低速信号チャネルであるSBU信号を備えていて、前回説明した新たな機能を実現しています。なお、基板の裏面にレセプタクルがついているなら信号の並びは反対となりますが、外見からは判断できません。

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Pin assignment for USB Type-C® receptacle

図1: USB Type-C レセプタクルのピン配置

USB Type-C ケーブル

図2のように標準USB Type-Cケーブルはケーブルの両端にUSB Type-Cプラグがついており、どちらのプラグでもソース/シンクいずれの装置のレセプタクルにも挿入(左右反転挿入)できるようになっています。ケーブルの種類は従来と同様のパッシブケーブル、信号減衰を解決するアクティブケーブル、データを光で通信するオプティカル、ハイブリッドケーブルなどが定義されています。図3に示されるように複数種類あるケーブルの素性を示すために、e-Markerと呼ばれる半導体素子をケーブル内に搭載できるようになっており、システムはこの半導体素子と通信することでケーブル種類を識別するようになっています。

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Pin assignment for USB Type-C® cable

図2: USB Type-C ケーブルのピン配置

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Equivalent circuit for USB Type-C® cable

e-Marker付USB Type-Cケーブル

Raは800-1200 ohmの範囲

標準USB Type-Cケーブル

図3: e-Markerの有無によるUSB Type-C ケーブルの等価回路の違い

図4では左側の装置Aと右側の装置Bを標準USB Type-Cケーブルで物理的に結線した場合に発生するケースについてまとめています。各々の装置のCCが標準USB Type-Cケーブルを介して物理的に結線される組み合わせは4通りが考えられるため、装置Aと装置Bがお互いにどのようにつながっているかを理解するため、従来と異なる方法での接続シーケンスが必要となります。

USB Type-Cでの接続シーケンス

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Physical connection by using USB Type-C® cable

図4: USB Type-C ケーブル物理的結線

従来のUSB-Aプラグはホスト用 ポートやUSB ACアダプタのポート(DFPと呼ぶ)にだけ、USB-Bプラグはデバイス用 ポート(UFPと呼ぶ)にだけ接続できるようになっていたため、ソースとシンクの役割、ホストとデバイスの役割は接続と同時に自動的に決定されていました。一方、USB Type-Cは上述のような物理的な4つの接続の組み合わせのみならず、PC同士や周辺機器同士、ACアダプタ同士でも接続することは物理的には可能であり、役割を確定するために追加のプロセスが必要になります。

これはCC1およびCC2ラインの電位を観測することで実現されます。 図5に示されるようにソースは、CCをプルアップし、シンクはCCをプルダウンするように指定されています。図6のようにソースとシンクが、USB Type-Cケーブルで接続されるとCC電位は接続と識別すべき範囲の電位(vRd)になり、ソース同士の接続やシンク同士の接続とは異なる電圧レベルが検出されることになります。ソースとシンク両方のCC電位をモニターすることで、接続検出と同時に、どのようにUSB Type-Cケーブルがレセプタクルと結線されているのかも判断できます。

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Equivalent circuit for Source and Sink based on USB Type-C®

USB Type-Cソース

ソースではCC1およびCC2を56k, 22k, 又は10kで Pull Upすることが求められる。この抵抗値はType-Cでの給電能力(Default, [email protected], 5V@3A)を示す

USB Type-Cシンク

シンクではCC1およびCC2を5.1kで Pull downすることが求められる。

図5: USB Type-Cベースのソース及びシンクの等価回路

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Attachment detection
 
VBUSvRd (V)
Default0.25-1.5
[email protected]0.45-1.5
5V@3A0.85-2.45
 

図6:接続検出

Raはe-Markerがない場合は開放端となります。Raが存在することを確認した場合、e-Marker を動かすための専用電源であるVCONNが必要と認識できるので、3A以上の電流やEPRをサポートするソース、USB4やオルタネートモードに対応するDFPなどは、Raを検出したCCピンのRpを外してVCONNの供給を開始する必要があります。

一方、図7のようにソース同士を接続すると、CCの電位は接続と識別すべき電圧範囲を外れた電位となります。この状態で、両方ソースがVBUSを給電状態にすることは安全性の観点から望ましくないため、接続が検出されるまでVBUSは0Vとする仕様となっています。この状態をコールド ソケット(COLD Socket)と呼びます。

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Connection between two sources

図7: ソース同士の結線

同様に図8のようにシンク同士を接続した場合でも、CCの電位は接続と識別すべき電圧範囲を外れた電位となります。

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Connection between two sinks

図8: シンク同士の結線

続いて、USB Type-Cにおける追加の接続プロセスをまとめます。

  1. Source-to-Sink 接続/切断検出
  2. Plug向き/Cableねじれ検出
  3. 初期給電方向(Source-to-Sink)とデータ通信(Host-to-Device)関係の確立
    ここまでは、VBUS = 0V : コールド ソケットでVCONN =0Vになっています。
  4. ケーブルがVCONNを要求するならそれを検出し、VCONNを供給
    この状態ではVBUSに 5Vが給電されているかもしれませんが、シンクはまだ電力を消費してはいけません。ケーブルが、VCONNを要求しないなら0V または VCONNを要求するなら3 ~ 5V(ThunderBolt3 Active cableの互換性のため)を供給する必要があります。
  5. USB Type-C VBUS電流検出と使用
    なお、シンクの接続判定はCC電圧=vRd(識別電圧範囲)かつVBUS=5Vとなります。ちなみに、USB PD未対応のUSB Type-Cにおける給電能力はDefault、[email protected][email protected]が定義されており、シンクはモニターしたCCの電位レベルからソースが供給できる電力を識別して、動作時にこの電力までは消費することになります。なお、Defaultとは、USB2.0では5V@500mA, USB3.1の単一レーンでは 5V@900mAとなっています。

これらのプロセスのあと、USB PD通信、機能拡張のDiscoveryとconfigurationによりデータ チャネルや給電の設定が行われます。

つづいて、従来のUSB-Aコネクタ、USB-Bコネクタ含めたUSBの口(ポート)で、定義されている役割(ロール)について解説します。

USBポートに定義される役割(ロール)

USBポートには表1に示されるようにデータとパワーの二つ役割(ロール)が定義されています。

データ・ロールは従来のDFP,UFPに加え、OTG (USB On The Go)と同等のDFP/UFPの切り替えが可能なDual Role Data (DRD)の三つのケースが定義されています。同様に、パワー・ロールもSource-Only (ソース)、Sink-Only (シンク)と、ソース/シンクの切り替えが可能なDual Role Power (DRP)の三つのケースが定義されています。

DRPは接続されるまで、ソース(CCラインのPull Up抵抗)またはシンク(CCラインのPull Down抵抗)を、交互に切り替えることでどちらにもなれることを、対向の装置に示します。この場合、最初に自分がソースになるのかシンクになるのか確定的ではありません。このため、接続時にソースまたはシンクに優先的なろうとするTry.SRCやTry.SNK と呼ばれるDRPやSource(default)やSink(Default)のように接続時にはソース又はシンクになるが後でパワー・ロールを変更できるようなDRPも定義されています。

表1: USBで定義されている役割(ロール)
分類ロール名説明
データ・ロールDFPAコネクタの役割を持つポート
UFPBコネクタの役割を持つポート
DRDDFP/UFPのどちらにもなれるポート
パワー・ロールSource-Only給電ポート(電力を供給)
Sink-Only受電ポート(電力を消費)
DRP給電/受電どちらにも なれるポート Toggling (Source/Sink)
Try.SRC
(DRP)
DRPのうち、接続時にできるだけSource-DFPになろうとするDRP
Try.SNK
(DRP)
DRPのうち、接続時にできるだけSink-UFPになろうとするDRP
Source
(Default)
DRPの一種。接続時TogglingせずSourceになるが Power Role Swap可
Sink
(Default)
DRPの一種。接続時TogglingせずSinkになるが Power Role Swap可

USBはデータ通信と受給電を一つのコネクタで実現しているため、USBコネクタはデータ・ロールとパワー・ロールの両方の側面から役割を定義する必要があります。表2に示されるようにデータ・ロール 及びパワー・ロールの組み合わせは USB-A, USB-Bコネクタとの互換性を維持するため ソースはDFPに、シンクはUFPになることが必須要件として定義されています。 必ずしもデータ通信は必要ではないACアダプタの実現も考慮してUSBのデータ通信機能はオプション定義となっています。

表2: データ・ロール とパワー・ロールの組み合わせ
USB Type-Cにおけるロールの組合せデータ・ロール設定UFP用機能DFP用機能
DFPUFPUSB DeviceUSB Host
パワー・ロール 設定ソース必須OptionOptionOption
シンクOption必須OptionOption
DRP必須必須OptionOption

どんな製品にどんなロールが採用されるのか?

次に、各ロールの組み合わせがどのような装置で採用されるか見てみましょう。

PCに搭載されているUSB-Aコネクタで要求されるソース・DFPロールを持つUSB Type-C装置は、給電固定となるため、ACアダプタが代表的な装置となります。一方、周辺装置に搭載されているUSB-Bコネクタで要求されるシンク・UFPロールを持つUSB Type-C装置は、受電固定であるヘッドセットのような周辺装置があげられます。PCやスマートフォンなどの多くのUSB Type-C装置はDRP・DRDロールを持つでしょう。スマートフォン、PCのドッキング・ステーションやUSB HubはTry.SNK(DRP)・DRDロールの採用を、ノートPCやパワー・バンク、さらにはデスクトップPCではTry.SRC(DRP)・DRDロールの採用をよく確認することができます。

ノートPCとドッキング・ステーションを接続し、データ通信は従来のPCからドッキング・ステーションへの方向を維持したまま、給電をドッキング・ステーションからPCに反転させたケースは、表2でOptionとして定義されている特異点になります。この場合、ドッキング・ステーションはソース・UFPに、ノートPCはシンク・DFPになり、それぞれ、ソーシング デバイスおよびシンキング ホストと呼ばれます。これらのロールの組み合わせは通常の接続シーケンスだけでは実現できず、後述のロール・スワップにより実現できる新たな機能になります。

続いて 、DRP対応の装置を接続したときにどのようなロールになるかを考えます。図9に示されるようにパワー・バンクをACアダプタに接続するとACアダプタはソース・DFPに固定されるので Try.SRC(DRP)・DRDのパワー・バンクはソースにはなれず、シンク・UFPに確定することになります。又、同じパワー・バンクをTry.SNK(DRP)・DRDのスマートフォンに接続するとのパワー・バンクはソースにスマートフォンはシンクになります。

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Example of role status for each device after connection

図9:接続後の各装置のロール状況例

ロール・スワップについて

今回の解説の最後はロール・スワップになります。ロール・スワップは字の通り、USBポートの役割を入れ替えることになります。USB Type-Cには従来のデータ系、VBUS/GNDのラインとケーブルへの給電用の電源VCONNの3種類が存在し、接続されている相手側のUSBコネクタの役割と自身の役割を交換することが可能な仕様となっています。この3つのロール・スワップ以外に、前回お話したファスト・ロール・スワップ(FRS)の四つがロール・スワップとして定義されています。いずれも、PCでの利便性向上のために定義されたと言えるかもしれません。

前述のように、USBコネクタはデータ・ロールとパワー・ロールの両方の側面から役割を定義されており、接続されている相手側のデータ・ロールと自身のデータ・ロールだけを交換 (DFPとUFPの入れ替え)する機能がデータ・ロール・スワップになります。データ・ロール・スワップを行っても、VBUS/GNDのラインの状態やケーブルへの給電用の電源VCONNの状態は変化しません。同様に、パワー・ロール・スワップは接続されている相手側のパワー・ロールと自身のパワー・ロールだけを交換 (ソースとシンクの入れ替え)する機能になります。この場合も、パワー・ロール・スワップの結果、データ ラインの状態やケーブルへの給電用の電源VCONNの状態は変化しないようになっています。

DRD・DRP同士の装置を接続させた場合、装置のロールがどのようになるかは確定的ではありません。このため、この両方のロール・スワップが定義されたことで、図10のようにノートPCとドッキング・ステーションを接続し、データ通信は従来のPCからドッキング・ステーションへの方向を維持したまま、給電をドッキング・ステーションからPCに反転させたケースを実現することができるようになりました。

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Power Role Swap and Data Role Swap

図10:パワー・ロール・スワップとデータ・ロール・スワップ

VCONN・ロール・スワップはケーブルへ給電する機器を切り替えるためのものです。e-Markerへの通信はVCONNを供給している機器のみが認められています。例えば、オルタネートモードやUSB4での通信を行う場合、DFP側がVCONNを供給してしない状態で、DFP側がe-Markerとの通信を必要とする場合、VCONN・ロール・スワップを使って、VCONNを供給する必要があります。

ロール・スワップはUSB PDの通信により行われます。

次回は、USB PDが安全性について、規格面でどのような配慮をしているかを説明いたしましょう。

USB PD 徹底解説

  1. 便利さを増すUSB給電
  2. USB PDの技術 1〜安全と利便性を実現する技術〜
  3. USB PDの技術 2〜USB Type-Cとロール・スワップ〜
  4. 規格で守るUSB PDの安全性
  5. ルネサス のソリューションにUSB PDはお任せ!