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室内空気質基準を先導する環境センサの新たな時代

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DK Singh
DK Singh
テクニカルシステム&ソリューションマーケティング統括部, Vice President
掲載: 2023年6月2日

新型コロナの大流行により、多くの人が長時間室内で過ごすことになったため、私達はおのずと自分たちが呼吸する空気の質に関心を持つようになりました。昨年発表された世界保健機関(WHO)の報告書によると、有毒な室内空気は、心停止、肺疾患、脳卒中、肺がんなど、300万人以上の死亡を引き起こした原因とされています。この問題は、安全な調理用燃料が十分に普及していない貧しい国々で特に顕著ですが、より豊かな経済圏でも、空気中の揮発性有機化合物(VOC)、一酸化炭素、窒素酸化物、オゾン、ホルムアルヒドなどの存在が問題化しています。

近年、空気質の健康被害に対する関心は世界中で着実に高まっています。それに伴い環境センサは、住宅、公共施設、産業、民生の分野において、半導体市場でも最も急速に成長しているセグメントの1つです。ルネサスは2014年から大規模な環境センサの研究開発を開始し、現在ではさまざまな化合物を検出する複数のセンサ方式を備えた環境センサを実用化しています。住宅、ビルや工場現場などを対象に、空気中の大気質を正確に把握し、クリーンエアを確保するために活用されています。

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(出典:世界保健機関)

しかし、室内や屋外の空気質に対して関心が高まるにつれ、大きな課題も出てきました。私たちは今、環境センサの市場において過渡期にいると言ってもよいでしょう。実際、世界各地でさまざまな規格が次々と生まれていますが、まだ規格を統合できるような見通しは立っていません。

最近では、大気環境に関する大きな動きが二つありました。一つ目は、米疾病対策センター(CDC)の最新ガイドラインで、室内空間での呼吸器疾患の蔓延を防ぐために、換気に関する改善目標が設定されました。もう一つは、アメリカ暖房冷凍空調学会(ASHRAE)が発表した、新型コロナやインフルエンザなどの室内空気感染ウイルスを減らすためのHVACシステムに関する暫定要件です。

ルネサスは、世界中の多くの環境検出および改善に取り組む機関と協力しています。これには、標準化を通じて建物内の空気データの収集と継続的なモニタリングを推進する上海の国際組織RESETや、環境リスクと有害物質の早期発見を目的としたドイツの連邦環境庁UBA、および米国のさまざまな業界基準機関が含まれます。また、最近公開されたルネサスの2022年度サステナビリティレポートでは環境保全の一環として、私達の取り組みにも触れています。

AIを使ったシステムレベルの空気質の検出と改善

企業や政府、業界団体による空気質基準の標準化が進む中、ルネサスは約10年にわたり研究を継続していて、様々な基準に対応しうる柔軟なデジタルガスセンシングシステムをお客様に提供しています。MEMSベースのアナログセンサにデジタル信号処理コントローラを組み合わせたユニークなガスセンサシステムは、リアルタイムで空気質を測定し解析することができます。

当社のガスセンサと、人工知能(AI)技術を応用して開発されたファームウェアのプラットフォームを利用することにより、お客様はさまざまな建物内の空気質の基準に容易に準拠できます。また、Reality AI社の買収により、さまざまなセンサを組み合わせた、より高精度の検出が可能なソリューション開発が可能になりました。世界中の学校や公共施設では、空気質のモニタリングのオンライン化がすでに始まっています。当社の空気質センサアルゴリズムを活用すると、ハードウェアとしては同一のものを使いながら、ソフトウェアの切り替えによってそれぞれの国の基準に合わせた空気質モニタリングを実現できるといった、国を超えた総合的なソリューションが実現できます。また、センサシステムではAIを使用し、異なる種類のガスや有機化合物を区別します。同時に空調制御システムフィルタの交換時期を予測し、温度、湿度、室内空気質の測定に多大な影響を与える可能性のある干渉ガスなどの環境の変化を自動的に調整する組み込み制御機能を備えています。これらのセンサは、空調システム、自動温度調節装置、スマート家電、煙探知機など、お客様が室内設備に分散して設置できるメインシステムに組み込むことができます。

当社の空気環境センサソリューションは、お客様が部品レベルでの調達、試作からテスト、検証、製造、調整を行うことなく開発が可能となるため、製品のさらなる差別化を図ることができます。近年、様々な国で空気質の標準化のために公的な予算が組まれています。今後ますます「空気質」にまつわる標準は一般的になっていくでしょう。ルネサスではお客様の生活をより楽(ラク)にするとともに、人々の健康的で安全な環境を提供してまいります。

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