モノのインターネット(IoT)は、私たちの日常生活だけでなく、人間社会の構造全体を大きく変貌させるでしょう。スマートホームから未来の工場まで、接続されるデバイスの数は急速に増え続けています。IDCによると、2025年までに557億台以上のデバイスが接続され、そのうちの75%がIoTプラットフォームと連携されるとのことです。これにより、これらのデバイスから生成されるデータ流出量は、2019年の18.3ZBから2025年には推定73.1ZBまでに拡大すると予想されます。現時点で、効率的なAI(人工知能)アルゴリズムの統合により、IoT導入の課題を克服する方法が数多く提示されています。AIとIoTデバイスの発達は、データの体系的な計算分析を確実なものにし、レイテンシやセキュリティ侵害といった課題を克服することにつながってきました。また、リアルタイムのデータ処理能力を実現する一方で、動的なネットワークと分散型インテリジェンスの構築にも成功しています。
AIoT(モノの人工知能)とは何か?
モノの人工知能(AIoT)とは、現在世界を席巻している比較的新しい用語です。新興技術において2大巨頭である人工知能(AI)とモノのインターネット(IoT)を組み合わせた専門用語で、より効率的なIoTの運用の実現、人間と機械のインタラクションの改善、データ管理・分析を強化します。IoTは、環境から膨大な量のデータを収集・生成できるセンサーを内蔵した、相互接続されたモノで構成されています。そしてAIは、以前の経験から機械学習し、事前知識に基づいてタスクを実行します。 AIはIoTデータを有用な情報に変換することができ、適切なタイミングで適切な意思決定を行うために効率的に利用されます。AIはIoTの「ビッグデータ」、接続性、信号を活用し、IoTは機械学習能力から恩恵を受けるという互恵的関係を築いているのです。
AIoTでは、IoTインフラストラクチャーコンポーネントにAIが組み込まれており、多くのレイヤーでこれらコンポーネント間の相互運用性と信頼性を確かなものにするためにAPIが使用されています。この運用形態は、システムやネットワークの機能・運用の改善と、隠れた価値を引き出すためのデータ管理に注力しています。データ解析については、AI、IoT、そしてシステムの組み合わせによる、さらなるインテリジェンスで価値が上がっています。例えば、IoTネットワークのエッジからのデータは、機械を自動化し、運用レベルでのタスクの活性化を可能にします。AIとIoTが融合する場所をわかりやすく説明するために、下図でデータのライフサイクルを示してみましょう。IoTは、IoT認識レイヤーのセンサーを使用して、データを取り込む役割を担っています。そして、ネットワーク層内で通信を行い、データを集約して統合を図ります。その後、そのデータはIoTプラットフォームを通して解析されます。最後に、その解析結果をもとに、アプリケーション/ビジネス層で「行動」が実行されます。IoTの本質的な価値は、アプリケーション層での「行動」の値で決まり、主に前ステップの「解析」に依存します。このステップ「解析」こそが、AIの活動の場なのです。
AI:IoTに対する真の付加価値
クラウドからIoTネットワークにAIを組み込むことで、特にエンドポイントでは、IoT拡張性をサポートし、効果的なリスク管理によってリスク軽減させながら、運用状況やシステム全体の効率性を改善することができます。これにより、例えば緊急停止時間を最小化して運用コストを削減し、ひいては可用性を向上させることができるのです。
組み込み型エンドポイントでの効率的なAI推論には、デバイス上でローカルに情報を管理し、関連データを蓄積し、意思決定を行うという画期的な方法が求められます。
エンドポイントで効果的な人工知能(AI)、機械学習(ML)、もしくは深層学習(DL)を採用するには、システムのコアタスクを処理できる利便性の高いハードウェアと、パフォーマンスや電力消費を損なわない関連アルゴリズムが必要です。現時点では、必要とされるCPU性能、インテリジェントな省電力ペリフェラル、そしてさらに重要なものとして、強固なハードウェア・セキュリティ・エンジンを備えたIoT Readyマイコンが、AIoTの導入拡大に役立ちます。とはいえ、ハードウェアだけでは解決できるものではありません。このような制約のあるデバイスで動作させるためには、インテリジェントなMLモデルをサポートする最適化されたミドルウェアが必要です。
IoTネットワークのエッジで動作するIoT ReadyマイコンユニットをベースにしたスマートIoTデバイスは、膨大な量のデータを収集・処理する役割を担っています。 エッジからクラウドへデータを処理・転送するには、最適化されたパフォーマンス、安全な通信、そして何よりも高い電力消費が必要とされます。IoTデバイスを大規模に導入するためには、電力消費を極めて低いレベルに抑えることが重要となります。そこで、TinyMLが、高度に複雑なAI/MLモデルを効率的かつ環境的に最適化して実行するための技術を提供します。
ここからはエンドポイントにおけるTinyMLの進化と有効性、および段階別にAIoTの採用についてさらに詳しく見ていきましょう。
ステージ1:AIとクラウド
まず出発点として、クラウドは機械学習モデルのトレーニングとホスティングのための唯一の場所であり、最終的にはコンピューティング操作とアプリケーション関連のタスク管理のために非常に大きなパワーを必要とします。マイコンユニットは、IoTネットワークの領域でセンサーやアクチュエータを管理する役割を担います。下図のように、AIモデルはクラウド上で処理されますが、クラウドにデータを送信する際にIoTネットワークが過負荷になる可能性があります。これらはレイテンシを発生させ、リソースを消費するため、特にリアルタイム性や安全性が重要視されるアプリケーションには不向きです。
ステージ2:AIとエッジ
システムの効率化と意思決定の向上のため、エッジやエンドポイントでAIモデルをローカルに実行できるようになっています。しかし、リソースに制約のあるエッジデバイスにおいては、機械学習モデルのトレーニングは、依然としてクラウドで行われる必要があります。そのような学習モデルは、それからエッジで実行することが可能になります。このアプローチによって、クラウドのパワー(トレーニング)と、エッジでの低レイテンシ(実行の高速化)のメリットを享受することができるのです。
ステージ3:エンドポイントにインテリジェンスを埋め込む
この段階で、IoT製品の設計者は、機械学習モデルをマイコンに直接組み込むことができるようになります。クラウドのエッジで追加的「行動」を行うという余分なステップを省くことができるのです。
しかし、MCU上で動作するMLモデルは、高速実行を可能にするために軽量でなくてはいけません。そこで多くのリソースを必要としないTinyMLは、IoTの制約を受けるデバイスに適したソリューションと言えます。つまりTinyMLは、リソースの最適化、所有コストの削減、エネルギー効率の向上、データセキュリティの改善、最終的には低レイテンシに役立つのです。これが分散型インテリジェンスの誕生につながり、さまざまなアプリケーション分野でAIoTの導入が拡大するきっかけとなるでしょう。
では、ルネサスが高効率なAIoTソリューションの実現に貢献できるユースケースを見ていきましょう。例えば、産業分野での予知保全では、機械学習モデルを組み込むことで、リアルタイムに問題を検出し、それに応じて行動することができます。
パターン認識:特定の単語や指示を検出すると、システムを変化させることができる画像や音声認識モデルです。
スマートヘルスケア:インテリジェントな事前診断、医療状態のモニタリングとリアルタイム分析、効果的な画像認識による迅速な治療など、さまざまな応用が可能です。
ウェアラブル・スマートデバイス:スマートウォッチからフィットネストラッカー、各種モニタリングデバイスまで用途は無限大です。
AIoTの出現は、多くの新技術やアプリケーションに広がり、人間生活のあらゆる分野で前例のない進歩の可能性を開いています。AIoTのより広い普及には、接続性、セキュリティ、先進技術の開発といった点で、いかなる障壁を取り払うための協力と標準化が必要です。
何十億ものスマートデバイス開発への道は大きく開かれ、これまで不可能とされていた新しいアプリケーションやビジネスを創出するでしょう。今後予想を遥かに超えたものがやってくるにあたり、私たちの想像力を解き放つ時になります。