スマートフォン、ノートパソコンや様々なモバイル機器の充電式バッテリはいつまで使えるでしょうか? 多くの人は、数年のうちにこれらのバッテリの劣化に気が付きます。幸いなことに、5年後に起きる劣化を知る前に、私たちは新製品に買い替えているでしょう。
さてここで、長い場合には10年間は性能を保ち続けないといけないバッテリを想像してみてください。生涯をオフィスの机の上やポケットの中ではなく、極寒や猛暑の中で過ごすバッテリです。とても高価で、故障した場合には高額な修理費用が必要なバッテリです。そう、それは最新のEVやハイブリッド車のバッテリです。
1世紀ほど前から将来、車両は電動化すると言われてきましたが、ようやく電動車両の時代が来ました。ご存知のように、これらの車を動かす最新のリチウムイオンバッテリは顧客の期待を満足させつつあります。しかし、この車を使いこなすには、バッテリ性能が最も発揮されるように車を操作し、温度を管理し、バッテリの電気化学的性質を理解する必要が有ります (そのためには後述する細部が重要です)。
そして今、競争が始まっています。今日、自動車メーカはバッテリEVや、様々な方式のハイブリッド車、または最低限のアイドリングストップなどで、電動化を競っています。自動車メーカがこのような技術を組み込む時、システムやサブシステムのどこに価値があり、コストはどれぐらいか、そして、それは堅牢で安全か、が焦点となります。
ルネサスは総合車載半導体メーカとしてこの要求に応えています。最新のBMSでは、セル電圧の同時サンプリングにより制御アルゴリズムの効率改善と容易化を実現し、セル電荷をバランシングさせるスイッチの内蔵化によりソリューションコストを削減し、ホットプラグとEMCトランジェントに強靭なセル電圧測定トポロジを設計しています。そして、ASILと機能安全解析をサポートしています。これらにより、システム設計者やOEMから新しい車を実現するために寄せられる様々な要求に応えています。それらの最新情報はここに有ります https://www.renesas.com/jp/ja/products/automotive/battery-management-systems.html
さて、重要な細部の話に戻りましょう。システムレベルの取り組みは、そのバッテリをより長期間の使用に耐えられる物にすることです。さて、ピカピカ新車EVのバッテリを10年使い続けるためには何が必要でしょうか? BMSは、セル電圧、セル温度、直列接続された全てのセルに等しく流れる電流の3つのリアルタイムパラメータしか測れません。バッテリ制御に関する他の全てのパラメータはこれらの値の関数として計算されます。そして、これら3つの中で、セル電圧が最も重要です。
なぜセル電圧が重要なのか? それは、セル電圧はセルの電気化学的状態を最も的確に示すからです。もちろん、温度も重要です。しかし、温度は主にセル電圧による制御を補正するために用いられます。電流測定と電荷測定も有用ですが、それらの計算はセルの終止電圧などと組み合わされて使われます。例えるなら、電流測定と温度測定が聴覚と触覚だとすれば、セル電圧測定は視覚のようなものです。
電圧精度について少し詳しく説明します。まず、重要な事はBMICで測定した電圧を、本当のセル端子電圧にどれだけ近づけられるか(初期精度と呼ばれます)と言う点です。また、BMICがプリント基板にはんだ付けされた場合、はんだ付けによって生じる応力はBMICの精度に影響を与えます (はんだ付け後精度と呼ばれます)。そして、満充電から充電切れまでの間バッテリを管理する場合はどうでしょうか? セル電圧はバッテリ残量を判断するために使用されるので、その間の温度変化やセル電圧の変化によってBMICの精度バラツキが生じると、バッテリ残量 (State of Charge: SoC)の推定精度を悪化させます。ルネサスはISL78714などのBMICの開発に注力し、はんだ付けによる応力の影響などの最小化、温度ドリフトの低減、電圧測定精度の測定電圧依存の低減などで業界をリードしています。
そして、忘れてはいけないのが、バッテリは10年以上使われるという事です。バッテリが寿命に至るまで、バッテリの状態 (State of Health, SoH) を推定し続けるには、BMICはバッテリが使われるのと同じ期間、安定した精度を保ち続けなければなりません。それは、BMSがBMICの精度変化による測定電圧の変化と、実際のセル電圧の変化を区別できないからです。ルネサスは顧客の車両のライフタイムでの使用環境の温度プロファイルから、BMICのライフタイムでの精度をモデリング、キャラクタライズする技術で業界をリードしてきました。
では、ルネサスはどのようにして顧客のBMSの将来の精度変化を予測するのでしょうか? ルネサスは、実験室で得られた25℃での実際のロングタームドリフト特性データと加速テストでのデータを用いてISL78714のライフタイムでの精度変化を計算する数学的手法を開発しました (ICのボードレベルでの精度とロングタームドリフト特性は時間の対数で予測可能です)。顧客は基板レイアウトの推奨ガイドラインと、はんだ付けリフロー温度プロファイルに従い、見込まれる車両のライフタイムでの温度プロファイルを提供するだけで、次のような15年の精度変化のグラフを受け取る事が出来ます。
電動化車両の時代が訪れ、自動車業界はさらに高機能なBMICへの要求に拍車をかけています。ルネサスは優れた電圧精度と共に、BMICの高機能化に応えて行きます。