クルマのE/Eアーキテクチャの進化
いま、「自動車産業は大きな変革期に突入している」と言われています。ほんの数年前まで、普及までまだ時間がかかると思われていた電気自動車(xEV)やコネクテッド・カー、自動運転車の普及が目前まできています。この変革のトレンドとしては、以前から「CASE:(Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動化)、Shared & Service(シェアリング&サービス)、Electric(電動化)」が提唱されていましたが、COVID-19の影響によって、CASEのうちのS(Sharing & Service)の勢いが失速、むしろパーソナルなモビリティサービスへの需要が高まり、CASEのSに代わり、「Personal Mobility Service」の「P」を加えた「PACE」へとトレンドが変化しつつあります。
この「CASE」あるいは「PACE」のトレンドを牽引しているのは、エンドユーザーがクルマに求める価値の変化です。環境への配慮していること、安全でセキュアであることが、エンドユーザーが「よいクルマ」と考える条件になってきており、その上で、快適性や利便性も従来以上に高い水準で求められています。
このようなトレンド、ニーズの変化に対応すべく、クルマの電子・電気アーキテクチャ(E/Eアーキテクチャ)の変革が進行中です。現在主流のE/Eアーキテクチャは、多数のECUを用途に応じて車内各所に配置した「分散型アーキテクチャ」ですが、今後はクルマ全体の制御を一箇所に集中させた「中央集権型アーキテクチャ」、さらにクルマを複数のゾーンに分割して協調的に制御する「ゾーン・アーキテクチャ」へと進化していくと予想されています。
車載ソフトウェアの重要性
こうしたトレンドに対応した、新しいE/Eアーキテクチャに対応したクルマを開発していく上で、鍵となるのはソフトウェアです。自動運転技術を支えるAIも、xEVのモーターやバッテリ制御も、そしてクラウドとのコネクテッドサービスも、すべてソフトウェア無しには成立しません。このことを証明するかのように、クルマに搭載されるソフトウェアの規模も増大の一途をたどっています。一説ではLevel 5の自動運転対応車に搭載されるソフトウェアの規模は10億行を超えるとも言われています。これだけの膨大なソフトウェアを早く、高品質で開発し、Time-to-Marketで市場に投入できることが、市場での競争に勝つ必要条件になってきています。
プラットフォーム・アプローチ
このようなクルマのソフトウェアをめぐる市場の変化に応えるため、自動車メーカー各社は車載ソフトェアのプラットフォーム化に取り組んでいます。例えば、トヨタ自動車のAreneやフォルクスワーゲンのvw.osなどがその代表的な例です。自動車メーカーがプラットフォーム化を推進する目的はいろいろありますが、一つには異なる車種間、あるいは一つのクルマの中でも異なるECU間で開発環境を統一、共通化を進めることで生産性を高めること、もう一つにはクルマ向けの様々なアプリケーションに対して、プラットフォームとして標準的なAPIや開発環境を提供することで、新しいアプリケーションやサービスを素早く導入できるようにすることです。
このような自動車メーカーのプラットフォーム化の進展に呼応する形で、当社デバイス向けのソフトウェアにいても、プラットフォームの強化を進めています。その目的は、お客様の生産性を高めることにあり、特に以下の2つの点を重視しています。
- All-in-one パッケージ:従来はソフトウェア部品という「点」でお客様に提案してきたが、開発環境やAIアルゴリズムの設計支援ツール、サンプルアプリケーション等を包含した「面」でお客様の開発を支援する
- クロス・プラットフォーム:クルマに搭載されているECUは多岐に渡るが、用途によって使用するデバイスやオペレーティング・システムが異なる事が多い。このため、例えばサラウンドビューや自動運転で利用される物体認識のためのソフトウェアひとつとっても、コクピット用とADAS用、それぞれのECUで異なるOS(例えばLinuxとQNX)やデバイス(当社で言えばコクピット向けのR-Carとビジョン/ADAS用のR-Carではラインアップが異なる)が採用されているため、別個に開発する必要があった。このような問題を解決し、ソフトウェアの再利用性を最大化するため、HW、OS、ミドルウェア、それの違いを吸収する抽象化層導入、OS、デバイス横断で共通のプラットフォーム(クロス・プラットフォーム)を実現する。
このソフトウェア・プラットフォームと当社のR-Car 及びRH850シリーズを組み合わせていただくおとで、ソフトウェア再利用性を大きく向上させ、お客様の生産性を改善、Time-to-Marketでの製品リリースに貢献します。
本ソフトウェア・プラットフォームは現在鋭意開発中です。当社最新のデバイスと共に順次展開されていく予定です。