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エンドポイントAI活用に向けて

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Suad Jusuf
Suad Jusuf
Senior Manager
掲載: 2022年9月5日

モノのインターネット(IoT)は、私たちが暮らす日常生活だけでなく、社会の構造全体をも変革する運命にあります。スマートホームから未来の工場において、接続デバイスの数が急速に増え続けています。人工知能(AI)とモノのインターネット(IoT)の結合によって、人間と機械間の相互作用が改善され、データ管理と分析が強化されてきました。そして現在ではシステムの効率化とより良い意思決定のため、エッジやエンドポイントでAIモデルがローカルに実行されています。しかし、リソースに制約のあるエッジデバイスでは、機械学習モデルのトレーニングが、まだ多くの場合クラウドで行われる必要があるのも事実です。それからエッジに学習モデルが配置され、実行に移るという流れです。この方法によって、クラウドの能力(トレーニング)と、エッジでの低レイテンシー(実行の高速化)といったメリットが生まれます。

エンドポイントAIは、ネットワークのエッジでインテリジェント機能を使います。データを計算するために使われているIoTデバイスを、AI機能を備えたスマートツールに変えるのです。これにより、リアルタイムの意思決定能力と機能が加わることになります。ここでのゴールは、機械学習ベースのインテリジェントな意思決定を、データのソースに物理的に近づけることです。このような背景から、AI機械学習組み込みシステムはエンドポイントへとシフトしています。そして産業、消費者、ヘルスケア、輸送、製造、小売など、幅広い場面へと広がっているのです。

バリュー・プロポジションを定義する

AIOTのバリュー・プロポジションは、より優れたインテリジェンスをエッジに配備させ、最終的に高い機敏性を達成できることです。エンドポイントデバイスは、まさにデータの発生源であるネットワークのエッジに位置するため、より迅速かつ正確な反応ができます。さらに不要なデータ転送やレイテンシ、実行データのセキュリティリスクなどのコストを削減できるのです。

ここでの最初のステップは、問題を認識し、それを分析して、適切な判断を下すためにシステムからの関連情報を得ることです。次に、情報・データを分類してグループ化し、必要なAI/MLモデルに有益な特徴を抽出して、訓練する方法を探す必要があります。エンドポイントで実行されるAIモデルは、複雑な現実世界の問題に対してより良い洞察と解決策を提供します。エンドポイントにAIを組み込めば、開発者はシステムを根本から再設計することなく、強力な機械学習モデルを活用することができるのです。エンドポイントとは、ある意味、結果をプロセス、システム、もしくは人間に渡し、その人間がその入力を解釈して反応するといった、プロセスの最終ステップ部分なのです。

全体におけるデータ

AIを使って現実世界の問題を解決し最良の結果を得るには、言ってしまえばデータとその品質が最重要となります。そしてあらゆる科学的手法、アルゴリズム、プロセスを用いて、増加し続けるデータから洞察を抽出する統合的なアプローチを採用する必要があります。これは未処理データの中に隠されたパターンを認識するソフトウェアによって行われます。ここで得られた貴重な洞察は、ビジネスの苦境を分析的に解釈し、実行可能なソリューションに変換されることで、企業の意思決定を容易にします。

批判的思考が機械学習アルゴリズムに組み込まれると、データサイエンスはより優れた洞察を与え、効率的な取り組みをし、予測を行います。企業がデータサイエンスの恩恵を受けて進歩的な意思決定を行い、より革新的な製品とサービスを生み出すことがゴールとなるのです。ここでキーとなる要素のひとつは、TinyMLなどの技術を活用したAI/MLモデルを開発し、リソースに制約のあるエンドポイントで似たようなモデルを実行できるようにすることです。この方法は、組み込みハードウェア向けの機械学習モデルの構築を簡素化し、機械学習(ML)データ取得のための関連AIツールに依拠します。そしてウィザードがモデルのトレーニング、テスト、エクスポートのプロセスを助けます。

プロセスについて

エンドポイントAIアプリケーションの構築には、データサイエンス、ハードウェアエンジニアリング、組み込みプログラミング、ソフトウェアエンジニアリング、機械学習技術に加えて、開発するアプリケーションに関する専門知識を含んだ特定のスキルセットが必要です。アプリケーション構築に必要なステップは、下図のように4つのパートに分けることができます。

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ケーススタディ:予知保全

PdM(予知保全)とは、機械学習と予測データ分析を用いて、システムまたは機器に潜在的な故障が起きる兆候を幅広く監視する、時間に基づいたデータ駆動型アプローチです。様々な機械学習モデルに依拠する予知保全では、開発者は与えられたデータセットに対して自動データ処理を実行できます。学習済みモデルが潜在的な機器の故障を検出するので、推奨されるアクションがリアルタイムで実行されるのです。

言い換えれば、予知保全は人工知能技術と機械学習/TinyMLアルゴリズムがセットになったシステムとして見なすことができます。ここでのアルゴリズムは、特定の機械の監視過程で収集されたデータを使って、起こりうる異常を予測するモデル学習のために使用されます。

予知保全のユースケースの一例は、ビルディングオートメーション、家電製品、産業オートメーションなど、さまざまなタイプのモーター制御アプリケーションで見ることができます。モータ制御アプリケーションにPdMを導入することによって、電気モータが振動周波数やサインを生成するため、モータの振動に関わる故障を検出、管理するのに役立ちます。いったん基準値が確立されると、パターン認識により、モータの効率と安全な動作に不均衡、ミスアライメント、緩み、ベアリングの故障があるかどうかを特定できます。と同時に、メンテナンスとサービスコストを削減するので、システム全体の安定性を維持することが可能になります。

モータ駆動のアプリケーションにおける故障の多くは,振動異常と不均衡負荷に関連しています。こういった異常を予防すれば、モータ巻線の絶縁不良、高額な修理費、交換時の大きなダウンタイムをもたらす可能性があるシステム故障や過熱を防ぎます。AIベースの予知保全ソリューションを導入することで、これらすべてを防ぐことができるでしょう。

そこで、スマートホーム、産業オートメーション、ビルディングオートメーションをターゲットとしたモータ制御アプリケーション向けに設計された、ルネサスRA6T1グループMCUがございます。これは、家電、HVAC、ソーラーインバーターからACドライブまで、モータ制御アプリケーション特有のニーズに対応する豊富な周辺機能と、AIによる故障検出機能を備えています。

Arm Cortex-M33コアをベースにした、新しいRA6T2 32ビットMCUは、240MHzで動作し、高性能かつ高精度なモータ制御用に最適化された豊富なペリフェラルが特徴です。高速アナログと統合された周辺機能は、モーター制御の性能を向上させながら、部品コスト(BOM)を大幅に削減します。例えば、RA6T2 MCUのフィールド指向制御を使用したシングルセンサレスモードでは、最大2つのブラシレスDC(BLDC)モータを同時に制御することができます。

さらにルネサスでは、RA6T2CUベースのシステムにより強化された故障検出機能を追加すべく、TinyMLアプリケーション専用ツールチェーンを組み込んでいます。そして予知保全を考慮し、インテリジェントで使いやすく、コスト効率の良いセンサレスモータシステムを提供しています。このようなTinyMLベースのAIモデルは、モータシステムにおける潜在的に有害な異常をより早く、より正確に検出し、お客様の予知保全プロセスの改善とメンテナンスコストの削減を叶えます。

ルネサスでは、予知保全に対応したモータ制御ソリューションを迅速に構築するために、すべての必須コンポーネントとソフトウェアビルディングブロックからなる、RA6T2ベースの開発キットをご用意しています。

  • RA6T2は、PWMタイマとアナログ機能を1チップに搭載した、モータ制御に最適な製品です。最大2つのモータを制御することができ、豊富なアナログ機能を備えています。
  • • 完全なモータソリューションによって、モータ制御アプリケーションの評価とデバッグを実現いたします。ハードウェアキット(MCK-RA6T2)および評価ツールRenesas Motor Workbench(RMW)は、システム全体のリアルタイム解析と調整を可能にする評価、およびデバッグ用のリファレンスソリューションとしてPdMソリューションに付属しています。
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MCK-RA6T2(完全モータ制御開発プラットフォーム)

ルネサスでは、音声、ビジョン、リアルタイム分析を含む幅広いアプリケーションに対応する高効率なAIOTソリューションを推し進めています。AIベースのソリューションを短期間で構築しなくてはならないエンジニアのために、ハードウェア、ソフトウェア、AIツールを含む、包括的で高度に最適化されたTinyMLエンドポイント対応ソリューションをご用意しています。

AIが影響を及ぼす範囲は、クラウドだけでは決してありません。あらゆる場所、あらゆるものに及ぶでしょう。ローカライズされたオンデバイスのインテリジェンス、レイテンシの低減、データの完全性、迅速なアクション、スケーラビリティなど、エンドポイントAIは、目の前に広がる新しいAIフロンティアでの可能性を無限大にします。開発者、プロダクトマネージャー、ビジネス関係者は、現実世界の問題を解決して新たな収益源を生み出す、より優れたAIoTシステムを構築し、この大きなチャンスをものにする時です。

私たちはルネサス製品を使った開発サポートをはじめ、今まで可能でなかった新しいアプリケーションやビジネスづくりを応援いたします。皆さんの想像力を今こそ解き放つ時です。

詳しくは、 ルネサス|Artificial Intelligence もご覧ください。

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