みなさん、こんにちは。ルネサスエレクトロニクスの小井土雅寛と申します。パワーデバイスの戦略マーケティングを担当し、お客さまの技術サポートを行っています。
現在爆発的に需要が急増している電気自動車(EV)ですが、その理由は皆さんご存じの通り脱炭素社会に向けた取り組みです。様々な分野で取り組みが行われていますが、自動車分野では従来のエンジンからモーターに切り替わる大激変が急速な勢いで起こっており、この様な状況でお客様(OEM/Tier1/Tier2)が望まれる事は「短期間に低損失で壊れない車を作る事」です。
ルネサスはEVのメインモーターを制御するインバータのキーパーツであるIGBTを提供していますが、今回新製品であるAE5の製品リリースを行いましたので製品特徴とルネサスの取り組みについてご紹介します。
AE5の特徴①:電気的特性の改善
EV性能で注目される走行距離はメインモーターを制御するインバータ性能(損失)が大きく影響しますが、そのインバータ損失を低減するためには高効率なIGBTが必要となります。IGBTの損失には導通損失とスイッチング損失があり、AE5は導通損失に注目し従来品(AE4)比10%改善しました。業界トップレベルの性能を実現しており弊社従来品(同電流密度時)と比べてインバータ動作時のIGBT損失を3〜6%改善が期待できます。更に製造プロセスの改善によって特性バラツキを抑えて量産化する事も可能となりました。具体的にはIGBTがオンするしきい値電圧を従来の半分となる±0.5Vで規格化しました。これは大電流制御で並列使用を行う際にIGBTがオンするタイミングのズレを抑えられるため、電流アンバランスを発生し難くなりインバータ設計の負荷を軽減する事が可能です。
AE5の特徴②:高破壊耐量維持
従来比10%の高電流密度化を達成したことにより、低損失と高破壊耐量を両立した最適チップサイズ(100 mm2/300A)を実現しました。特に破壊耐量は最大動作温度の175℃時に、ICパルス600Aでの逆バイアス安全動作領域(RBSOA)を保持し且つ短絡耐量4µs@400Vの高破壊耐量を維持した事により、一般にご要求されるレベルを確保しているため使いやすいデバイスとなっています。更に内蔵ゲート抵抗の温度依存性を50%低減した事により低温時のスパイク電圧抑制や高温時のスイッチング損失低減する事が出来ますので温度変化に対しても安定した高いパフォーマンスを発揮することが可能です。
ルネサス取り組み:パワー専用製造ライン/甲府工場の再稼働
パワーデバイスは民生や産業分野で電力供給や制御を担っていますが、現在EV向け需要が急増しており、今後更なる需要が見込まれています。このような需要に対応するために2014年に閉鎖した甲府工場を300㎜ウェハ対応のパワー半導体生産ラインとして、2024年の稼働再開に向けて準備を進めています。本取り組みによりパワー半導体の供給能力は現在の2倍となり、自社最大のパワー半導体ライン構築によって脱炭素社会の実現に貢献します。(甲府工場稼働再開についてはこちら)
今後も高電圧バス電圧に対応した1200V耐圧の製品展開や新素材の製品化などを計画しており、EV向けに魅力ある製品展開を行っていきますのでご期待ください。