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Dirk Zuendorf
Senior Staff Engineer
掲載: 2021年3月24日

パワートレインの電動化の様々なバリエーションにおいて、マイルドハイブリッド(MHEV)市場は48V電源ネットの実装による優れた費用対効果が見込まれることから、今後の高い成長率が予測されています。一方で、この追加された48V電源ネットにより、そのECU設計およびそこに実装される半導体においても新たな要件が求められます。その主な項目としては、12Vおよび48V電源の共存であり、それらがそれぞれの電源ネット内および 相互の電源ネット間で正しく動作することを実証することが求められます。ルネサスはこれらのシステムレベル 要件を特定し、検証するためのコンセプト実証ボード(PoC)を開発しました。VDA320、ISO21780、ISO16750規格に準拠した評価や新規IP検証のためのテストチップ開発も既に開始しています。これらの評価で得られた知見は、現在計画中の48Vゲートドライバユニット(GDU)ファミリー製品開発に適用することを予定しています。

MHEV市場とアプリケーション

益々厳格化されるCO2排出ガス規制の目標値を達成するためには、パワートレインの電動化が必須です。xEVはバッテリ電動車(BEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)、フルハイブリッド(FHEV)、マイルドハイブリッド(MHEV) 等、いくつかの種類に分かれています。
電動化がどのように進展するかを見ると、図1に示すようにMHEVの成長率が高いことがわかります。
Strategic Analyticsによると、MHEVの2018年から2025年までの年平均伸長率(CAGR)は32%と推定しています。地域別では最初に欧州と中国、その後北米において普及が拡大するとみられており、2025年時点で欧州 350万台、中国 240万台、北米 230万台の需要が予測されています。
 

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図 1: 地域別xEV および MHEV 市場推移

MHEVには追加の小型電気モーターが装備されており、それは低コストで既存のICE(内燃エンジン)に簡単に追加することができます。 大半のMHEVは48Vシステムを採用しています。 BSG / ISG(ベルトドリブン・ スタータ・ジェネレータ / インテグレーテッド・スタータ・ジェネレータ)や従来12Vシステムで実現されていたいくつかの補機アプリケーションは既に48Vシステムで実現されており、近い将来においてさらに多くの補機アプリケーションが12Vから48Vシステムに移行することになります。図2は、48V MHEV および 48V モーター制御アプリケーション(トラクションモーター、スタータージェネレーター、補機アプリケーション等)の市場予測を示しており、これらは、2030年まで大幅に増加することが予想されています。特に補機アプリケーションのシェアは約45%になります。補機アプリケーションの例としてはオイルポンプ、ウォーターポンプ、コンプレッサ、ターボチャージャー等があります。 

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図2: 48V MHEV および 48V モーターアプリケーション市場の需要予測

48Vシステムの利点

48Vシステムの主な利点としては、ブレーキや慣性走行等、様々な運転状況において通常失われるエネルギーを蓄積し、そのエネルギーを使用して負荷駆動等の動力を得ることにあります。いわゆるこの回生エネルギーにより、燃料の約10%~15%を節約し、CO2排出量の削減を行います。この回生エネルギーを48Vバッテリに蓄積することにより、負荷電流を小さくできるという派生的な利点が得られ、電力損失低減、ワイヤハーネス重量やそのコスト削減、ひいては効率改善に貢献します。 

新しい要件と課題

48Vシステムの導入(48V電源ネットと呼びます)においては、 VDA320、ISO21780、ISO16750、LV148 等、12V/48V 電源ネットの組合せに関するいくつかの標準規格への準拠が求められます。これらの標準化の活動は主に欧州OEMとTier1によって主導されています。

12V電源と48V電源の共存を確保するには、特別な要件が必要となります。高電圧耐性に加えて、12V電源と48V電源におけるドメイン間アイソレーションも必要です。
現状48V電源システムに対応した半導体部品は限られていることから、48V ECUにおいて全ての必要機能を実現するために、多くのディスクリート部品を使用する必要があります。例えば48V 補器アプリケーション向けの既存のソリューションは、多かれ少なかれディスクリート部品で構成されており、非常に高いBOMコストとなっています。 

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図3: 現状の48V モーター制御システムの構成

ルネサスのソリューション

ルネサスは、48V補機アプリケーション、特に48Vモーター制御向けのPoCソリューションとしてテスト環境を 開発しました。このテスト環境においては12V/48V 電源間のドメイン分離、デュアル電源、センシング、監視/診断といったモーター制御に必要な機能が実装されています。このテスト環境における主な目的は、48Vシステム用としての半導体部品に求められるシステムレベルの要件、VDA320、ISO21780、およびISO16750といった標準規格へ準拠する場合の主要課題を特定することにあります。

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図4: 48V PoCソリューション

このPoCボードには、以下のようなルネサスの車載用半導体製品およびその他の部品が実装されています。

  • RH850/C1M-A2 : EV/HEVアプリケーション用 32ビットマイクロコントローラー
  • RAA270000 : RH850用パワーマネジメントIC
  • ISL78434 :ハーフブリッジドライバ
  • RBA250N10 : 100VパワーMOSFET(ANM2)
  • IPS2550 : インダクタンス型Sin / Cos高速回転位置センサー
  • シングル出力降圧コントローラー
  • ISL78215 :電力変換用絶縁型PWMコントローラー

 

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図 5: ブロック図

このPoCソリューションの主な目的は、48Vシステム向けの半導体部品に対するシステムレベル要件の特定や、VDA320、ISO21780、ISO16750等のテスト規格準拠に対する課題を抽出することにあります。ルネサスでは、これらの標準規格に基づく48Vテスト環境を構築し、既に評価を開始しており、そこで得られた評価結果や課題はテストチップ開発にも役立てられています。

48Vシステムが様々な補機アプリケーションへ展開されることが期待される一方で、それに対応した半導体部品が限られていることを考慮すると、48V電源ネットの導入においては様々な技術的課題の発生が予想されます。ルネサスは現在、48Vシステム向けに新しいゲートドライバ製品群の開発を行っています。これらの製品ファミリーではモーター制御システムに必要な機能をIC内に統合するとともに、ガルバニックアイソレーションの有無による派生品等もラインナップする予定です。

費用対効果の高い、革新的なアイソレーションコンセプトはVDA320、ISO21780、IS016750への準拠に役立ちます。また、モーター制御に必要とされる機能を内蔵することにより、部品実装をシンプル化し、BOMコスト、PCBスペースの削減が期待され、さらにモーター筐体内にECUを統合する等、システムの小型化が可能となります。強化、拡張された監視、保護、診断機能をゲートドライバに統合することで、機能安全レベルの向上が図れます。また機能をモジュラー式にゲートドライバに内蔵することで、各々のゲートドライバはアプリケーション毎に最適化されたソリューションとして提供でき、お客様における市場投入までのTATを短縮します。

ルネサスは、PoCソリューションに実装しているゲートドライバを、開発中の48V用ゲートドライバ製品に置換え、将来デモソフトと併せて48V補機アプリケーション用のリファレンスデザインとして提供することを計画しています。それらは“easy to use”なソリューションとして、新たなECU設計におけるお客様の開発期間の短縮に貢献できると考えています。

ご関心をお寄せいただき、ありがとうございます。

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