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データ時代を支えるルネサスのクロック技術

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Zaher Baidas
Zaher Baidas
Vice President 兼 General Manager、タイミング製品事業部
Published: January 30, 2025

クロックは、すべての電子機器の性能を支える基本となる要素です。「半導体業界のメトロノーム」とも呼ばれ、データ信号を同期させることで、システムの安定した動作を支えています。しかし、今日のタイミングデバイスは、単にソリストのために拍子を刻むのではなく、複数のインターコネクトパスを通じて、まるでオーケストラ全体を指揮するような役割を果たしています。

ルネサスは、クロックおよびタイミングICソリューションのリーディングプロバイダとして、この重要でありながらも過小評価されがちな技術の最前線を長年にわたり牽引してきました。この技術は、ほぼすべての電子システムにデジタルパルスを供給する役割を担っています。

今回のブログでは、ルネサスのタイミング製品事業部のVice President兼General ManagerであるZaher Baidasにインタビューを行い、生成AI、高速ネットワーク、スマートビークルといった新しい技術の時代において、彼とそのチームが急増するデータ量を管理することで、顧客をどのようにサポートしているのかを探ります。

質問: あなたがこの分野に携わり始めてから、データ処理の進化は、クロック技術やタイミング技術にどのような変化をもたらしましたか?

Zaher: データの増加は、速度と効率を追求し続ける終わりのない競争です。年齢がバレてしまうかもしれませんが、私が大学時代にダイヤルアップモデムを56キロビット/秒にアップグレードしたときは、とても興奮したのを覚えています。そして先週末には自宅のWi-Fiの速度が遅すぎると思い、500メガビット/秒以上にするために格闘していました。

速度だけでなく、統合も重要です。ネットワーククロックとコンピュータクロックは、以前は別々のものでしたが、現在ではAI技術のおかげで、超高速帯域幅を持つ複数のインターコネクトとASICを同一のアクセラレータカードに統合しています。すべてが同じボードに統合されているのです。

質問: 現在のクロックおよびタイミング業界は以前とどのような点で異なりますか?

Zaher: 私がタイミング業界でキャリアを始めた頃、この市場は非常に断片化していて、多くの競合企業が存在していました。まるでどの会社もクロック部門を持っているかのようでしたが、複数種類の製品を提供しているベンダは1社もありませんでした。タイミングカードのシンクロナイザはベンダAから、ラインカードのジッタ減衰器はベンダBから、そしてクロックバッファはさらに別のベンダから購入する、という具合でした。

そんな中、ルネサス(当時IDT)はエンドツーエンドのタイミングソリューションを含む幅広いポートフォリオを開発する取り組みを始め、状況を一変させました。クロックツリーのために別々の3社のベンダと取引したいと思う顧客はいないでしょう。一方、私たちベンダにはあらかじめ予測を立ててリスクを負うことが求められています。顧客からPCIe Gen7クロックジェネレータが必要だと言われたとき、「承知しました、これから開発します」とは答えられません。その週に直ちにサンプルを送ります。そういうことができるのは、私たちがすでに2〜3年前にクロックIPの開発を始めていたからです。だからこそ私たちは、PCIe Gen7製品群を昨年、つまり最終的な仕様1.0のリリースの1年前に発表することができました。

今日のルネサスは、全顧客向けに完全なクロックツリーを提供できるようになりました。タイミング業界で唯一のワンストップショップになれたことを誇りに思います。必要なものはすべて、私たちで揃えられます。

質問: 高度な通信システムと生成AIデータセンタは、膨大なデータ量を生み出しています。ルネサスはどのようにして、顧客がデータトラフィックを効率的に整理できるようサポートしていますか?

Zaher: データ処理の高速化が進む中で、ルネサスの顧客は、よりクリーンな信号や、クロッキングの世界で「ジッタ」と呼ばれるノイズの低減も求めています。ルネサスは、データセンタの加速や高速通信システムに対応することで、30年以上にわたってクロック開発を牽引してきました。これらのトレンドを予測する能力を持っているからこそ、ルネサスは業界の最前線に立ち続けています。私たちは標準化団体への積極的な参加や、システムアーキテクトやエコシステムパートナとの深い連携などを通じ、それを実現しています。

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PCIe Clock Jitter versus Data Rate

質問: データセンタのような大量のデータを扱う有線アプリケーションと、5Gセルラーのような無線システムには、どのような共通点があるのでしょうか?

Zaher: どちらも、リファレンスクロックとして、高精度なクロックと厳密なタイミングやジッタ仕様が求められる点で共通しています。また例えば、4G/LTEネットワークと比べると、5Gはもっと複雑です。RF送信バンド幅が広いため、複数の周波数においてジッタ性能や帯域内位相ノイズを大幅に改善することが求められます。

質問: クロック発振器、ジェネレータ、バッファに加えて、ルネサスのクロックおよびタイミングポートフォリオは、主にVersaClock®、FemtoClock™、ClockMatrix™の3つのファミリで構成されていますが、これらはそれぞれどのように補完し合っているのでしょうか?

Zaher: 私たちは、よく考えてこれらの名前を選びました。VersaClockは、汎用性の高いクロックファミリです。まるで万能ナイフのようで、小型かつ標準的な、プログラム可能なタイミングデバイスです。FemtoClock は、性能重視のファミリで、業界最高水準の位相ノイズとフェムト秒レベルのジッタを誇ります。

そして3つ目のファミリは、私がルネサスの設計責任者として最初に関わった製品なので、特別な思いがあります。ClockMatrixファミリは、ネットワーク同期、周波数変換、ジッタ減衰、クロック生成機能などが統合されたタイミングソリューションです。このファミリは、IEEE 1588などの通信規格に準拠する必要がある有線ネットワーク向けに設計されており、複数のネットワークシステム内でクロックを同期させることができます。

質問: ルネサスは充実した設計サポートを提供していることで有名ですが、顧客はRenesas IC ToolboxやLab on the Cloudといったサポートツールに何を期待できますか?

Zaher: 私たちは、優れた製品を揃えるだけでは不十分だと考えています。大切なのは、最高の顧客サポートも併せて提供することであって、私たちはそれを実際に提供できていると思います。Renesas IC Toolbox(RICBox)は、当社のすべてのタイミングデバイスを簡単に設定できる便利なGUIです。Lab on the Cloudは、設計プロセスの後半において、顧客がオンラインでクロック設定をテストできる環境を提供します。万が一問題が発生した場合には、アプリサポートチームやFAEが迅速に対応します。

この業界は本当にグローバルなので、こうしたクラウドベースの自動設計ツールは、ルネサスの開発戦略にとって欠かせない存在です。

質問: クロックおよびタイミングデバイスを「ウィニング・コンビネーション」に組み込んだ事例を教えてください。

Zaher: 当社のタイミングデバイスは、ルネサスのコアビジネスであるMPU、MCU(マイコン)、そして車載製品を補完する役割を果たしています。ウィニング・コンビネーションの一例として、ルネサスのRZ MPUと、クロックマトリクスシンクロナイザとIEEE 1588ソフトウェアを統合したものが挙げられます。VersaClockソリューションについても、自動車のコックピットやADASなどの用途向けにR-Car SoCと組み合わせたソリューションがあります。

これらはただの実績あるシステムソリューションにとどまらず、それ以上の価値を提供するという点が特徴的です。ウィニング・コンビネーションのおかげで、私たち自身、製品開発の初期段階から他の事業部門と連携できるようになりました。時にはシリコンの仕様を決める前から連携を始め、何度も協力することで、今まで以上に優れたタイミングソリューションも実現しています。

質問: クロックおよびタイミング業界は、今後数年でどうなると予想しますか?また、ルネサスはその未来に向けてどのように備えていますか?

Zaher: 速度への需要は、今後も衰えることはないでしょう。巨大なデータセンタの内部であれ、次世代通信ネットワークと接続している場合であれ、スマートビークルを運転している場合であれ、速度は常に不可欠な要素だからです。さらに、AIや自動車のECUといった多くのアプリケーションがますます複雑化していることで、サイズへの制約も厳しくなっています。そのため、より小型で低消費電力、かつ高出力なデバイスへの需要が一層高まっています。

業界は貪欲にあらゆる発展を求めています。そんな中、次世代技術が登場するのを単に待っているだけではチャンスを逃すことになります。だからこそ、私たちは3年先の顧客のニーズに対応するための技術開発を積極的に進めているのです。それが私たちのこれまでのやり方であり、今後もその方針を貫くつもりです。

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