電流伝達率 (CTR) とは?
電流伝達率(CTR : Current Transfer Ratio)は、トランジスタの直流電流増幅率(hFE)に相当するパラメータで、入力順電流(IF)に対する出力電流(IC)の比率(%:100 × IC/IF)を言います。
CTRは、フォトカプラの特性の中では、絶縁耐圧と並んで重要な特性であり、設計時には特に注意すべき項目です。
なぜなら、CTRは次のような特性を持つからです。
- 入力の順電流(IF)の値によって変わる
- 周囲温度の影響を受ける
- 経時(経年的)変化する
そのため、回路設計時には、これらの点を十分に考慮して設計しないと、出力が小さくなって、動作不良を起こす場合があります。
さらに、 AC(交流)入力対応フォトカプラの場合には、入力側に2個のLEDを持っているので、正負同じ大きさの交流電流を入力しても、CTRは入力電流(IF)の極性ごとに異なります。そのため、それらのカプラでは、CTRも2つ規定されていますので、この点もあらかじめ注意が必要です。
CTRは入力の順電流(IF)の値によって変わる
CTRは、次図のようにLEDに流す順電流(IF)に依存し、CTRの最大点から見て、小電流、大電流いずれの方向でも小さくなります。
特に注意しなければならないのは、上図で、小電流領域(IF=1mA付近)と、大電流領域(IF=20mA付近)とではCTR変化の傾斜が正負異なることです。
つまり、小電流領域では順電流(IF)の値を小さくすると、出力電流(IC)が大幅に減少するので、順電流(IF)の値を必要よりも大きめに設計するのがコツです。
逆に大電流領域では、順電流(IF)の値を大きくしても、思ったより出力電流(IC)は増えませんから、出力電流(IC)を欲張らずに、小さめに設計する必要があります。
CTRは周囲温度(TA)の影響を受ける
一般的に、入力側のLEDの発光効率は負の温度係数を持っていますが、受光側のフォトトランジスタの電流増幅率(hFE)は正の温度係数を持っているので、CTRは、この2つの温度係数が合成された温度特性を持ちます。
基本的には、次図のように、両者の温度係数をうまく調整して、できる限りCTRが室温で最大となり、使用温度範囲内でCTRの変動が最小になるように設計されます。
次の図はその一例です。
フォトカプラの寿命はCTRの経時(経年的)変化で決められる
フォトカプラのCTRは、主に次の要因によって決まります。
- 発光ダイオード(LED)の発光効率
- 発光-受光間の光結合効率
- トランジスタの受光感度および電流増幅率(hFE)
CTRは、これらのうち、主にLEDの発光効率の低下のために経時変化します。 一般には、順電流(IF)が大きいほど、また次図のように、周囲温度が高いほど早く低下します。
そのため、フォトカプラの寿命は、他の一般的な半導体と異なり、CTRの低下によって定められます。
次図は、CTRが初期値の半分になったときを「寿命」と規定したときの、推定寿命データ例です。
CTRが大きいと応答速度が遅くなる「傾向」がある
一般的に汎用フォトカプラのCTRは、その初期値のばらつきにはフォトトランジスタの電流増幅率(hFE)のばらつきが、またその経時変化には発光ダイオード(LED)の発光効率の変化が主に影響する「傾向」があります。
初期値に関しては、次の2つの図のように、特にフォトトランジスタの電流増幅率(hFE)の影響が大きい、「遮断するときの応答速度(toff)」について、CTRが大きい右側の方が遅い「傾向」が見られます。
当然ながら、toffは入力順電流(IF)が流れなくなったあとの時間ですから、完全にスイッチングしている範囲であれば、順電流(IF)値とはほぼ無関係です。
一方、CTR経時変化は発光ダイオード(LED)の発光効率の低下が主体ですから、toffへの影響はほとんど見られません。
なお、上記のCTR値と応答速度との間の「傾向」は、規格で保証されるわけではありませんから、以上のようなCTRの性質を十分に理解し、使用する条件内のどこでも所定の出力レベルを得るのに十分な順電流(IF)で動かすことが基本です。そのうえで、十分な応答速度が得られない場合には、より高速な品種を選ぶことが必要です。