半導体デバイスの規格は、一般的に周囲温度(TA:デバイス周囲の気温)またはパッケージ表面温度(TC)が「25℃」で規定されています。
実際の使用環境はいろいろですが、25℃以外の特性や許容範囲は、ユーザが特性曲線などを使って、自分の設計する装置の使用環境に合わせて計算していただきます。以下は、もっとも一般的なフォトトランジスタ受光型フォトカプラの規格項目の説明です。
1. 絶対最大定格
1-1. 絶縁耐圧:BV(Vr.m.s.)
入力端子-出力端子間に印加できる交流電圧の最大値を実効値(r.m.s.:Root mean square)で表示し、絶縁耐量を保証しています。 通常、時間無制限ではなく、1分間など試験時間限定で保証される値です。
通常、時間無制限ではなく、1分間など試験時間限定で保証される値です。
1-2. 動作周囲温度:TA(℃)
通電が可能な温度範囲。
使用周囲温度が上昇すると、一般的に許容損失(PD, PC)は小さくなりますが、この温度範囲の外では、いっさいの通電が許されません。
フォトカプラの場合は、通電可能な温度を「パッケージ表面温度」ではなく、「周囲温度(デバイス周囲の気温)」で規定しています。
1-3. 保存温度:Tstg(℃)
「通電しない」状態(保管状態など)で許される温度の範囲。
1-4. 発光・順電流:IF(mA)
周囲温度25℃のとき、発光側のLED(発光ダイオード)の許容損失(PD)が守られている範囲で「破壊しない」最大電流。
1-5. 発光・逆電圧:VR(V)
発光側のLED(発光ダイオード)は逆耐圧が低く、逆耐圧を越えると急激に逆電流が流れます(この場合、発光しません) 。
しかも逆電流を流すと、以後発光効率が低下します。
そのため、一瞬でもこれ以上の逆電圧を入力すると、破壊、または回復できない劣化をする可能性があります。 ただし、AC(交流)入力対応フォトカプラでは、正負いずれも順電圧ですので、この値はありません。
1-6. 発光・許容損失:PD(mW)
周囲温度25℃における発光側のLEDの許容損失。一般的に許容損失(PD)は、次図のように、使用周囲温度が上昇すると小さくなります。
発光・順電流(IF)の最大定格のほかに、上記PD-TA曲線から使用最大周囲温度における許容損失を求め、その値を順方向電圧(VF)で割った値を越える順電流(IF)を流すと、破壊、または回復できない劣化をする可能性があります。
1-7. 受光・許容損失:PC(mW)
周囲温度25℃のときの受光フォトトランジスタの許容損失。一般的に許容損失(PC)は、次図のように、使用温度が上昇すると小さくなります。
受光・コレクタ電流(IC)の最大定格のほかに、上記PC-TA曲線から使用最大周囲温度における許容損失を求め、その値をコレクタ-エミッタ間電圧(VCE)で割った値を越えるコレクタ電流(IC)を流すと、破壊、または回復できない劣化をする可能性があります。
1-8. 受光・コレクタ-エミッタ間電圧:VCEO(V)
発光側のLEDに順電流が流れていない(発光していない)ときに受光側のフォトトランジスタのコレクタ-エミッタ間に加えることができる最大電圧。
一般的に、電源電圧をこの値付近にすると、スイッチング時の過渡動作軌跡(locus)が使用最大周囲温度における許容損失内に収まらず、導通または遮断する途中で過電力破壊する可能性があります。この点に注意し、電源電圧は、そういう過渡状態でも過損失にならない、十分安全な範囲に設定してください。
1-9. 受光・エミッタ-コレクタ間電圧:VECO(V)
受光側フォトトランジスタに加えることができる逆電圧。
一般的に、この電圧は受光フォトトランジスタのエミッタ-ベース間逆耐圧に依存し、低耐圧です。
一瞬でもこの値を越える逆電圧を加えると、破壊、または回復できない劣化をする可能性があります。
2. 電気的特性
2-1. 電流伝達率:CTR(%)
受光フォトトランジスタに一定のコレクタ-エミッタ間電圧(VCE)を与えたときの、所定の順電流(IF)に対するコレクタ電流(IC)の比率を%で表した値。
CTR (%) = 100 x IC/IF
次図のような、フォトダイオード受光型の場合も、順電流(IF)とトランジスタのコレクタ電流(IC)との比を表します。
一般的にCTRは、順電流(IF)や周囲温度(TA)、受光フォトトランジスタのコレクタ-エミッタ間電圧(VCE)により変動します。
また、使用時の周囲温度(TA)や順電流(IF)の大きさにより、「経時変化」します。
実際にフォトカプラを使用するときは、CTR-IF曲線やCTR-TA曲線、VCE-IC曲線、CTR経時変化曲線を使って、使用する周囲温度、コレクタ-エミッタ間電圧、通算通電時間において、受光フォトトランジスタに所定のコレクタ電流(IC)を流すのに必要な順電流(IF)の最小値を求め、それ以上の順電流(IF)が流せるように設計してください。
2-2. 入出力間絶縁抵抗:RI-O(Ω)
入力端子-出力端子間に直流の高電圧を加えたときの初期的な絶縁抵抗値。
湿度などの使用環境によって低下する場合があるので、使用する際にはこれらを考慮して設計、試験をする必要があります。
2-3. 入出力間容量:CI-O(pF)
入力端子-出力端子間に高周波信号を加えたときの結合静電容量の値。
この容量を通して、入力端子-出力端子間の電位差の急峻な変動が出力に出る場合があります。また、品種により、その出難さを「瞬時同相除去電圧(CM)」で規定しているものがあります。
入出力間容量は、実装条件などによって増加する場合があるので、使用する際にはそれらも考慮して設計、確認をする必要があります。
2-4. 瞬時同相除去電圧:CM(kV/μs)
出力フォトトランジスタに負荷抵抗を接続し、電源電圧を与えた状態で、入力端子-出力端子間に急峻な変化のパルスを加えたとき、出力フォトトランジスタのコレクタ-エミッタ間電圧の変化として観測されます。そのコレクタ-エミッタ間電圧の変化電圧が一定以下であるときの、パルスの立ち上がり/立ち下がり速 度の範囲。
2-5. 発光・順電圧:VF(V)
発光側のLEDに順電流を流したときの端子間電圧。 この値に順電流値を乗じた積が発光側の内部損失となります。 VFは、一般的に電流が大きいほど高く、温度が高いほど低くなります。
2-6. 発光・逆電流:IR(μA)
発光側のLEDに定格の範囲内で逆電圧を加えたとき、流れる電流。
一般的に逆電圧が高いほど大きく、温度が高いほど大きくなります。
逆電圧が加わるような回路では、使用条件範囲内でこの値の最大値を考慮して駆動回路を設計する必要があります。
2-7. 発光・端子間容量:Ct(pF)
発光側のLEDの端子間静電容量。
主に遮断時、この容量に蓄えられた電荷をすみやかに放電しないと、いつまでもLEDを通して微少電流の放電が続き、出力の遮断が遅れます。
駆動回路が、次の左図のように、LEDと並列にスイッチが入っている回路であれば、LEDを遮断させるとき、このスイッチを通して速やかに放電されるので 問題ありませんが、右図のように、スイッチがLEDと直列に入っている場合には、LEDと並列に放電抵抗を設けた方が素早い遮断特性が得られます。
論理ゲートで駆動する場合には、直列並列のどちらにもスイッチが入っている形ですので、基本的には放電は速やかに行われますが、駆動力が弱いゲートや、飽和出力電圧が高いゲートでは、放電抵抗が必要な場合があります。
2-8. 受光・コレクタ遮断電流:ICEO(nA)
発光側のLEDに順電流が流れていない(発光していない)ときの、受光側のフォトトランジスタのコレクタ漏れ電流。暗電流とも呼びます。
一般的に電源電圧が高いほど大きく、温度が高いほど大きくなります。
負荷抵抗の値は、使用条件範囲内でこの値の最大値を考慮して設計する必要があります。
2-9. 受光・コレクタ飽和電圧:VCE(sat)(V)
発光側のLEDに所定の順電流(IF)を流したときの、受光側のフォトトランジスタの所定のコレクタ電流(IC)に対するコレクタ-エミッタ間電圧。
順電流やコレクタ電流の値はもちろん、電流伝達率CTRの個別ばらつきやその劣化(経時変化)によっても大幅な変化をする場合があるので、これらに関しては十分考慮して順電流やコレクタ電流の値を設計しなければなりません。
2-10. 立ち上がり/立ち下がり時間:tr, tf(μs)
発光側のLEDにパルスで順電流(IF)を流した際、出力がON/OFFするときの出力電圧の過渡的変化時間。
両者の和の逆数は、その駆動条件での最大動作周波数にほぼ比例します。
2-11. 伝達遅延時間:tP(μs)
発光側のLEDにパルスで順電流(IF)を流したときの、順電流変化から出力電圧変化までの遅れ時間。
「立ち上がり/立ち下がり時間」と似ているが、定義が異なり、「入力の変化に対する出力の変化まで」の時間を意味します。
駆動信号の周期を角度で360度(2πラジアン)としたときの、この値に相当する角度の値がほぼ信号位相遅れとなります。
伝達遅延が発生するメカニズムは一般のトランジスタの場合と同じですが、フォトカプラの場合には、一般のトランジスタのようにベース電位を一時的に逆バイアスにして遮断時遅延を減らすことは基本的にはできません。 最初から十分な動作速度の品種を選ぶのが基本ですが、ばらつきでまれに遅いものがあるようなときには、電流伝達率CTRのランク区分がある品種ならばランクを限定することによって改善する場合もあります。