デジタル回路入門:2 of 3

デジタル回路入門の2回目となる今回は、デジタルICの基礎と組み合わせ回路について解説します。

デジタルICとは?

デジタルICとは、デジタル回路を集積化した半導体デバイスです。

デジタルICには様々な種類がありますが、用途別に下記のように分類できます。

マイクロコンピューター:
様々な処理を行うIC
メモリ:
データを記録するIC
標準論理IC:
ICの組み合わせで様々な機能を実現する論理回路
専用論理IC:
ユーザが独自に作成する論理回路

「標準論理IC」は論理回路の基本要素や共通的に使用される機能を1つのパッケージに収めた小規模な集積回路で、論理回路の基本要素となるものです。

今回はこの「標準論理IC」に注目して、デジタルICを学びましょう。

デジタルICの基礎、標準論理IC

「標準論理IC」は、論理回路の基本的なものから、演算論理装置のように高機能なものまで約600種類あると言われています。大別すると、TTL ICとCMOS ICに分類されます。

TTL (Transistor-transistor logic) IC:
回路の主要部分がバイポーラトランジスタによって構成される。5Vの電源電圧で動作する
CMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor) IC:
回路の主要部分がPチャネルとNチャネルのMOSFETを組み合わせたCMOSで構成される。幅広い電源電圧で動作する

図1:TTL IC

図1 TTL IC

デジタルIC同士で信号をやり取りする際は、信号を「High」または「Low」と決める論理とそれに対応する電圧を定める必要があります。この論理と電圧の対応を論理レベルと呼びます。

論理レベルが異なっていると、信号のやり取りができず、ICを破損することもあります。

図2:CMOS IC

図2 CMOS IC

TTL ICでは、

◇信号が入力される場合は、2.0V以上が「High」、0.8V以下が「Low」

◇信号を出力する場合は、0.4V以下が「Low」、2.4V以上が「High」

と判断します。このように、TTL ICは入出力の電圧レベルと論理が定められたTTLインターフェース規格に則って作られています。そのため、TTL IC間で信号をやり取りする際は、論理レベルを考慮する必要はありません。

一方、CMOS ICには、多くのシリーズがあり論理レベルが異なります。また、電源電圧によっても論理レベルが変化します。従って、論理レベルを合わせて接続する必要があります。

誤作動に注意、ファンアウト

「標準論理IC」を接続する際、出力に接続可能なICの数を考慮する必要があります。 TTL ICでは出力電流によって接続できるICの個数が制限され、接続可能なICの上限数をファンアウトと呼びます。TTL ICがバイポーラトランジスタによって構成されていることを思い出せば、スイッチングに電流が必要なことは容易に想像できるかと思います。TTL ICのファンアウトは、出力電流を入力電流で割ることで求めることができます(図3)。ファンアウト数を越えた数のICを接続すると、出力の論理レベルが保障されませんので注意が必要です。

図3:TTL ICのファンアウト

図3 TTL ICのファンアウト

CMOS ICファンアウトは、入力端子に電流がほとんど流れないため、電流をもとに決定することができません。CMOSは、電流ではなく負荷容量によってファンアウトが決定します(図4)。

CMOS ICのデータシートには、伝達遅延時間の測定方法という形で負荷容量が明記されています。その負荷容量を超えると、伝達遅延時間が増加することとなり、誤動作の原因になるため注意が必要です。

図4:CMOS ICのファンアウト

図4 CMOS ICのファンアウト

組み合わせ回路

論理回路のうち、入力信号の組み合わせだけで出力が決まるような論理回路を「組み合わせ回路」と呼びます。

逆に、内部に記憶回路と同期回路を備え、入力信号の組み合わせだけで出力が決まらない論理回路を「順序回路」と呼びます。

今回は、前者の「組み合わせ回路」について解説します。

「組み合わせ回路」は、前回学んだANDやOR、NOT、XORなどの論理ゲートを複数個組み合わせることにより構成されます。数種類の論理ゲートを並べると、様々な機能が実現できると理解しましょう。

それでは、「組み合わせ回路」の代表格、マルチプレクサとデコーダをみてみましょう。

出力信号を選択できるマルチプレクサ

マルチプレクサは、複数の入力信号から出力する信号を選択する信号切り替え器です。 

動作を自動販売機に例えてイメージしましょう。ボタンを選択することによって1つの販売口から様々な飲み物が出てくるのに似ています。

マルチプレクサの動作をスイッチに例えて表現します(図5)。スイッチAとして囲まれている縦に並んだ4つのスイッチは連動しています。スイッチBも同様です。つまりスイッチAが0、スイッチBが0の場合、出力に入力0が接続されることがわかります。つまり、出力に入力0の信号が出力されるわけです。同様に、スイッチA:1 スイッチB:0で入力1が、スイッチA:0 スイッチB:1で入力2の信号が、スイッチA:1 スイッチB:1で入力3が、出力されます。つまり、スイッチAとBによって、出力する信号を、4つの入力から選択できることとなります。これが信号の切り替えを実現するマルチプレクサ回路です。

図5:スイッチで構成したマルチプレクサ

図5 スイッチで構成したマルチプレクサ

このマルチプレクサを論理回路で表現すると図6になります。このようにANDとORだけで実現可能です。また、AND部分で判定を行いOR部分で信号を1つにまとめていることがわかります。

図6:論理回路で構成したマルチプレクサ

図6 論理回路で構成したマルチプレクサ

入力を判定する、デコーダ

デコーダは、入力を判定して該当する出力をON(High)にする「組み合わせ回路」です。論理回路で表現すると図7になります。

デコーダの真理値表をみてみましょう(図8)。この真理値表から2つの入力信号によって4つの出力信号のいずれかに1が出力されることがわかります。例えば2つの入力を2進数に、4つの出力信号をそれぞれ10進数の0、1、2、3に対応させると考えると2進数を10進数に復号化(デコード)している回路とみなすことができます。

図7:論理回路で構成したデコーダ

図7 論理回路で構成したデコーダ

入力1 入力0 出力3 出力2 出力1 出力0
0 0 0 0 0 1
0 1 0 0 1 0
1 0 0 1 0 0
1 1 1 0 0 0

図8 デコーダの真理値表

このほかにも、比較器や加算器(全加算器/半加算器)、乗算器、減算器、バレルシフタなど、数多くの「組み合わせ回路」がありますが、その多くが今回学んだマルチプレクサやデコーダを応用することで作成することができます。ただし、そのままでは回路が冗長になるなどの問題がでますので、回路の簡素化や圧縮が必要となります。

今回の「組み合わせ回路」に続いて、次回は「順序回路」について学びます。ご期待ください。

デジタル回路入門

  1. デジタルとは、基本論理回路
  2. デジタルICの基礎、組み合わせ回路
  3. 順序回路