メインコンテンツに移動

持続可能な食品物流を実現するSensize社の無線トラッキング技術

2025年2月13日

“スーパーマーケットの裏に行けば、サプライチェーンが抱える問題が見える”

この言葉は、Luke D’Arcy氏が共同設立した英国企業Sensize社が挑む課題を端的に表しています。同社は、インテリジェントな無線アセットトラッキング技術を活用し、循環型のプラスチック包装を実現することを目指しています。

Sensize社のBluetooth Low Energy(LE)およびGPS追跡デバイスは、輸送中のさまざまな貨物を監視します。主な注力分野は食品流通チェーンです。食品業界が世界的に膨大な量の廃棄物を生み出している現状を踏まえると、この分野には大きな課題があります。廃棄物処理会社であるRecycle Tracking Systems社によると、アメリカは世界で最も深刻な食品廃棄問題を抱えている国であり、毎年1,000億ポンド(450億キロ)以上、つまり国全体の供給量の約40%に相当する食品が廃棄されています。1人当たりに換算すると、これは約325ポンド(150キロ)に相当します。

アメリカ最大の食料救援組織であるFeeding Americaによれば、生産者や小売業者、流通業者、さらには輸送・物流業者によって廃棄される食品は、年間で約4,750億ドルの損失を生んでいます。

D’Arcy氏が指摘するように、商業廃棄物の中には食品だけでなく、商品の保管や配送に使用される包装材も含まれています。その中で最も一般的に使用されている素材は段ボールです。

画像
customer-success-story-sensize-page-image_ja

ヨーロッパのモデルから学ぶ、包装に関する教訓

一般的なスーパーマーケットからすれば、包装は食料品業界が何十年にもわたって扱ってきたコスト項目の一つです。D’Arcy氏は、ヨーロッパのビール醸造所が長年にわたり頑丈なプラスチック容器を使用してきたことに注目しました。プラスチック製のコンテナは高価ですが、使用寿命が長く、紙製よりもコストがかかることから、流通業者はその行き先をより慎重に見守ります。

D’Arcy氏は、「北欧や特にドイツでは、段ボールはあまり見かけません。例えばバーに入ると、標準サイズのプラスチックコンテナがずらりと並んでいて、ブランドロゴもしっかり入っています」と説明します。「最近、大手ビールメーカのイベントに参加した際も、マーケティング責任者が、同社のコンテナの中には1960年代から使われているものもあると話していました。」

Sensize社は、50年以上にわたって同じ容器を繰り返し使用する方が、数千もの段ボール箱を購入して廃棄するやり方よりも、経済面でも環境面でも望ましいと考えているのです。

アセットトラッキング:プラスチックか段ボールか

ヨーロッパのビール業界は、製品が出荷され消費された後に、輸送ケースを再び元の場所へ戻すという閉じたループのサプライチェーンを確立しています。ビールの醸造所が自らパブを所有し、在庫を補充しているため、流通がシンプルです。他方、数千ものサプライヤや数十の流通業者から調達した生鮮食品や肉類、その他の消耗品を管理している大手スーパーでは、サプライチェーンがはるかに複雑です。

D’Arcy氏はまた、ベリー農業を例に挙げます。ベリーはメキシコやアメリカ南部で栽培され、現地で収穫物を梱包した後、第三者の物流業者を通じて北米全土の店舗に配送されます。そのパッケージが再利用される仕組みはありません。

「これらの包装(アセット)は失われることも多いため、ほとんどの市場では今も段ボールが多用されています。でも、もし比較的高品質で再利用可能な包装をサプライチェーンに組み込み、次にそれらの資産を追跡するシステムを作ったらどうなるでしょうか?またそれは、物流チェーンで使用される二次包装、つまりプラスチックパレットや再利用可能なトレイ、箱などにも応用できるでしょうか?」

画像
Roll cages

Bluetooth追跡で食品サプライチェーンに新たなつながりを

食品サプライチェーンの追跡技術は、決して新しいものではありません。最初の食品バーコードは1974年に導入され、RFIDタグは20年以上にわたって食品流通業者に広く利用されています。Sensize社は、これらのシステムを置き換えようとしているわけではありません。これらのシステムでは包装された食品をスキャナの近くに置く必要があり、広域のカバレッジには対応できません。

D’Arcy氏は、「サプライチェーンはその性質上、広域にわたるため、単一の倉庫内だけでなく、どこでも適切に機能する技術が必要です。資産が北米やその他の地域にある数万もの店舗のどこに行き着いても追跡できるような技術が必要です。」と語ります。

Sensize社は、アセットトラッキングデバイスとしてBluetooth LEとGPSの組み合わせが理想的だとの結論に至りました。広域に展開できるほど十分に低コストで、バッテリ寿命は5年から10年に及びます。同社のコンテナとパレットの約97%には、Sensize社が「チャイルド(子)センサ」と呼ぶBluetoothトラッカが搭載されています。ただしBluetoothの通信距離は50メートルと比較的短いことから、Sensize社は各出荷物の残りのコンテナに低コストのGPS「ペアレント(親)センサ」を装備し、既存のセルラーネットワークを利用して資産を最終目的地まで追跡しています。

その間、Bluetoothトラッキングセンサがデータを収集し、ペアレントGPSトラッカが定期的にそのデータを送信します。このデータは配送車両から取得でき、低温物流では故障したエアコンの温度や湿度の変動を検出したり、箱が落下・損傷した可能性を報告したりすることも可能になります。このような情報は、食品のリコール時等に迅速に出荷元を特定するのに役立ちます。アメリカ食品医薬品局(FDA)によると、2023年には約150件のリコールが報告されています。このような詳細な追跡は、携帯電話、衛生日用品、市販薬など、多くのデータを必要とする日用消費財(FMCG)業界の他のセグメントにも同様に応用が可能です。

画像
SEN_RFID Tracking Explained_Feature_1500x625

ルネサスがBluetooth技術と設計サポートを提供

Sensize社が目標を達成できるよう、ルネサスは同社と協力し、独自のSmartBondTM 技術を採用したBluetooth LE チップ「DA14531」を組み込みました。この技術は、1.9GHzおよび2.4GHzの短距離Bluetooth用SoC(システムオンチップ)製品を20年以上にわたって開発してきた豊富な実績に基づいています。これまでに6億個以上のSmartBond Bluetooth LE ICが出荷されています。ルネサスのDA1453xは、他のソリューションの半分のサイズで外付け部品はわずか6つしか必要なく、非常に低い消費電力を実現しています。さらに、パワーロスを低減する昇降圧DC/DCコンバータを統合しており、アルカリ電池、酸化銀電池(コイン電池など)、印刷電池(リチウムイオン電池など)と直接接続して動作することができます。

「さまざまな市販ソリューションを分析した結果、ルネサスの部品は他のBluetooth LEデバイスよりも低消費電力であることが分かりました」とD’Arcy氏は説明します。「ソフトウェア開発環境のおかげで、必要なコードを取り込み、デバイスを迅速に市場投入することができました。また、ルネサスのEMEAおよびAPACのアプリケーションチームのサポートを受け、ルネサスの生産ラインツールを統合できた結果、より多くの製品を効率的に生産し、テストのコストも削減できるようにもなりました。」

画像
customer-success-story-sensize-page-image_products

トラッキングによるメリットはサプライチェーンを超えて拡大

Sensize社のアセットトラッキング技術は、無線接続をサプライチェーンのさらに深い部分にまで広げることで、環境にも企業の収益にも良い影響をもたらします。顧客がこの技術に慣れるにつれて、他のユースケースの可能性も広がります。

一部の企業では、在庫の回転を管理し、長期間陳列されることで期限切れになってしまう商品の数を減らす目的で、データ収集を自動化して送信機能を強化する取り組みが行われています。また他の企業では、センサを使ってどの商品が最も早く売れるかを測定し、店内の製品配置を最適化することで、販売促進の効果を測る試みが実施されています。

「私たちが潜在的な顧客に提案しているのは、資産の追跡を当社にお任せいただき、店舗の管理者が日々の状況を今まで以上に把握できるようにすることで、食品ロスを減らしましょうということです」とD’Arcy氏は語ります。「また、得られるデータにはさらに多くの価値があります。日用品・消費財メーカからすれば、店舗に人を派遣せずにプロモーションの効果を把握するのは非常に難しい課題です。当社のトラッキング技術を使えば、このような情報も時間単位で把握することができます。マーケティング担当者にとって非常に便利です。」

Sensize社は、食品の包装廃棄物削減を目指しています。センサ群とビジュアルデータ報告システムであるSensizeプラットフォームを活用し、世界中の食品チェーンに携わる顧客が、既存の分析システムを応用して、食品追跡に役立つ情報を引き出すことで、より効率的な物流業務を構築できるようサポートしています。

D’Arcy氏は「将来的には、すべてのコンテナ、箱、パレットが常に追跡されるようになり、追跡機器は資産が製造される最初の段階に取り付けられるようになると考えています。この構想は急速に実現に近づいており、すべての資産を数年以内に追跡可能になる見込みの顧客もいます。」と語ります。

Customer Success Stories

Small Data Garden Small Data Garden社が住宅業界の室内空気品質センシングに革新をもたらす

Small Data Garden社は、フィンランドのスタートアップ企業で、建築業者、不動産会社、住宅所有者が室内の空気質と換気を監視・制御できるよう支援しています。

NEIO1203-ESC210_top 人間とロボットが共に働く未来のために、機能安全を追求するNexCOBOT社

NexCOBOT社は「コボット」として知られる次世代協調型ロボット用の各種モジュールやコントローラを提供しています。こうした先進的コボットは、世界中のオートメーションに革命をもたらすとともに、機能安全の重要性も注目されています。

Ring One product photo Muse Wearables社のRing One

スタイリッシュなリングで健康管理から支払いまで、もっとスマートで、もっとオシャレに。