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次世代EVのエネルギー効率を向上する車載マイコン向けモータ制御専用回路技術を開発

~CPUでのソフトウェア実行と比較し1/10以下の演算時間と機能安全の両立を実現~

2017年2月7日

 ルネサス エレクトロニクス株式会社(代表取締役社長兼CEO:呉 文精、以下ルネサス)はこのたび、自動車のCO2排出規制強化に対応するエコカー実現に向けたモータ制御専用回路技術を開発いたしました。

 今回開発した技術は、次世代電気自動車(Electric Vehicle、以下EV)向け車載マイコンに搭載する専用回路「IMTS (Intelligent Motor Timer System)」で、EVモータ制御の必須処理であるフィールド指向制御演算(注1)を世界最速(注2)0.8μs(マイクロ秒)という、同一周波数のCPUでソフトウェア実行する場合と比べ1/10以下の演算処理時間を可能にしました。これにより、エネルギー効率に優れた次世代の高回転EVモータやこれを駆動する高速スイッチング性能を持つインバータシステムの実現に貢献します。また独自の回路構成により自動車のパワートレイン分野で求められる機能安全への対応も可能にしました。;

 昨今、自動車の燃費規制がますます強化されている背景から、自動車の生産台数に占めるEVやハイブリッド型電気自動車(Hybrid Electric Vehicle、以下HEV)、プラグインハイブリッド型電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、以下PHEV)の割合が高まってきています。これらモータで駆動する自動車の航続距離を伸ばすためにはEVモータ制御のエネルギー効率を向上する必要があります。このためにはモータ自体の機械的な改良のみならず、モータを制御する電子制御ユニット(Electronic Control Unit、以下ECU)の機能・性能向上も同時に重要です。次世代EV/HEV/PHEVに対応するECUには高機能かつ複雑な制御ソフトウェアを搭載する必要があり、ECUに搭載するマイコンにかかる演算処理負荷は増加の一途をたどっています。一方で車載用途のマイコンには高温環境下での高信頼性確保のため発熱の抑制を求められることから、マイコン内部のCPUコアをはじめとする回路の動作周波数は低く抑える必要があり、性能向上に課題がありました。

 このような課題に対してルネサスは、マイコンにおけるモータ制御のうち、センサデータの取得やこれをもとにした制御値演算および出力といった高い応答性能が求められるが固定的な処理をIMTSとして専用回路化し、CPUとは独立して自律実行が可能な構成とすることで、モータ制御用マイコンのCPUの負荷を大きく軽減することを可能としました。これにより余裕の生まれたCPUの能力を先進的なモータ制御アルゴリズムに割り当てることが可能となり、次世代EV/HEV/PHEVのエネルギー効率向上に貢献します。

 このたび開発したモータ制御専用回路技術の特長は以下の通りです。

(1)モータ制御の固定的な処理を専用回路化し自律的な演算を可能とする回路技術を開発

 モータ制御ではマイコン内部に搭載しているタイマ回路で管理される制御周期時間毎に、モータ電流値・角度値の取得、次の制御周期の制御値を決定するためのフィールド指向制御演算、この制御値に従ったPWM出力(注3)といった一連の固定的な処理を行う必要がありますが、この処理負荷は今後求められる複数モータ制御を同時に行った場合、当社40nm(ナノメートル、ナノは10億分の1)車載マイコンに搭載する320MHz(メガヘルツ)動作CPUの最大約90%相当の負荷(注4)にも達します。今回開発したIMTSでは負荷の重い演算処理であるフィールド指向制御演算を専用回路化し、さらにモータ制御専用タイマ回路と密結合した構成とすることで、タイマ回路で管理される制御周期毎に電流値・角度値の取得からPWM信号出力までの一連の処理を全てCPUとは独立して自律的に処理できるようにシステム化を行いました。この構成を採用することで該当処理のために必要であったCPU負荷を全て削減することが可能となり、その分空いたCPU能力を活用してさらなるエネルギー効率向上のための先進的な制御アルゴリズムを適用したソフトウェアを搭載することが可能となりました。IMTSによるフィールド指向制御演算処理は専用回路化したことにより0.8 μsという、CPUでソフトウェア実行する場合の1/10以下の演算処理時間を実現しています。この性能は、次世代EVモータ制御で視野に入るSiCなど新材料のパワーデバイスを用いたインバータ制御の高速スイッチング(性能例:スイッチング周波数100kHz(キロヘルツ)、制御周期10μs)で求められる性能に対しても十分な余裕を確保しています。

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(2)車載パワートレイン制御に必要な機能安全性を担保する回路技術を開発

 自動車のパワートレイン制御では万一部品故障が発生した場合にもその故障を検知し、システムを安全な状態へ遷移させる機能安全性を担保することが求められます。従来はマイコンを2個使用してシステムを二重化する、あるいはマイコンの内部回路を二重化する等の比較的コストアップにつながる対策が一般的でした。これに対して今回はマイコンに搭載するCPUコアを二重化するロックステップデュアルコアシステムを用いてIMTS回路内部を定期的に監視する方式を採用することで、低コストを維持しながら高速制御と機能安全性の両立が可能になります。機能安全性を担保した場合CPUへの負荷が発生しますが、実用的なケースを想定した場合2.4%(注5)という低いCPU負荷に抑えることが可能となっています。

(3)外部センサの誤差を柔軟に補正する回路技術を開発

 高精度なマイコン演算処理を実現するためには高精度なセンサ信号値を取得することが必要ですが、センサの取り付け位置による誤差など様々な要因により誤差を含むことが避けられません。今回開発したIMTSではユーザプログラムでこれらの誤差をリアルタイムに補正することが可能な構成を採用しました。またIMTSは自律的にこれらの処理を行いますので、CPUに追加の負荷をかけることなく補正処理を適用することができます。補正処理を施したセンサ信号値でモータ制御演算を行うことで、より高精度な演算処理が可能となり、モータ運転時のエネルギー効率向上につなげることができます。

 今回当社は、これらの技術を適用した、40nmフラッシュメモリ内蔵マイコンを試作し、実際のモータ駆動システムに適用することにより実システムでの動作を確認しています。

 ルネサスは、本モータ制御専用回路技術を用いることにより、よりエネルギー効率に優れたEV/HEV/PHEV向けECUシステムの実現に大きく貢献できると期待しています。

 なお、当社は今回の成果を、2017年2月5日から米国サンフランシスコで開催された「国際固体素子回路会議(ISSCC 2017(International Solid-State Circuits Conference 2017)」にて、現地時間の2月6日に発表しました。

以 上

(注1)フィールド指向制御演算とはモータ制御で一般的に用いられる基本処理であり、三角関数を含む複雑な演算処理に座標変換を施すことで直流化したのち、指定の制御値に近づける演算処理のことを指す。

(注2)2017年2月7日時点。ルネサス調べ。

(注3)PWMとはPulse Width Modulationの略であり、マイコンから外部のパワーデバイスを駆動するためのパルス信号のことを指す。

(注4)モータタイマの制御周期時間を次世代で求められる可能性のある12.5μsと仮定し、さらにこの制御周期時間毎に2つのモータ制御処理(例えば前後輪用モータ)を同時に行った場合のCPU負荷の計算値。

(注5)10万rpmの回転数でモータが1回転する時間以内で故障を検知するユースケースを考慮した場合のCPU負荷の計算値。

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