ルネサス エレクトロニクス株式会社(代表取締役社長兼CEO:鶴丸 哲哉、以下ルネサス)はこのたび、CMOSやBiCDMOS(Bipolar CMOS DMOS)など様々なプロセスに混載可能な、高書き換え耐性と書き換え時の低消費エネルギを実現する90nm(ナノメートル:10億分の1メートル)1トランジスタタイプのMONOS構造(注1)フラッシュメモリ技術を開発しました。卓越した回路技術により、Tj(注2)=175℃という高温下でも書き換え耐性としては業界初となる1億回以上の書き換え回数を実現し、書き換えエネルギでは0.07mJ/8kB(ミリジュール:1000分の1ジュール/キロバイト)の低消費エネルギ化を達成しました。
昨今、自動車の低燃費化とともに、居住性・快適性が求められており、増加する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)は、制御が複雑化するとともに、軽量化や低消費電力化、小型化が課題となっています。特に、ラジエータやウォーターポンプ、カーエアコン等で使用する小型モータは数が多いため、ECUの統合化や機電一体(注3)化も必要になります。
従来、これら小型モータ制御用の高電圧(HV)ドライバを制御するための車載アナログ&パワー回路には、ベースプロセスを変更することなくフラッシュメモリを搭載することができないため、アナログの回路性能を最適化するためのチューニングデータを格納するメモリとして、e-fuse(注4)を内蔵するか、EEPROMチップが外付けされていました。今回の新技術を用いることにより、プロセスの追加を抑制しつつ、車載アナログ&パワー回路にフラッシュメモリを容易に搭載することが可能になります。これにより、センサとモータを接続するための各種アナログ回路に、マイコンと今回の新技術を用いたフラッシュメモリを混載可能になるため、モータ制御システムで使われるチップ数を大幅に削減することができ、実装面積の削減による小型、軽量化、低消費電力化を実現します。そして、ECUの統合化や機電一体の実現を加速し、自動車の低燃費化や、居住性・快適性の向上に貢献します。
また、今回、1億回の書き換えが可能なフラッシュメモリを内蔵したことにより、フィールド上での使用環境に応じた自動キャリブレーションや高頻度のサンプリングによる状態記録が可能となり、車載制御の高精度化、低燃費化に貢献することができるようになります。
このたび開発したフラッシュメモリ技術の特長は以下の通りです。
(1) 低消費FN書き換えと高信頼性を両立させるメモリアーキテクチャ技術を開発
少ない追加マスクで多様なプロセスとの混載を可能とする1トランジスタタイプのメモリセルは、読み出し時に、メモリセル選択ゲートに正電圧を印加する必要があります。また、低消費FN(Fowler-Nordheim)書き換えを実現するためには電荷トラップ膜を薄くする必要があります。これらは、車載高温下での信頼性悪化の要因となります。今回、新たに読み出し時の正電圧印加を不要とするアレイアーキテクチャ技術を開発することで、高温下での信頼性悪化を抑え車載品質を実現し、さらに低消費書き換えを可能とする1トランジスタタイプのフラッシュメモリ技術を開発しました。
(2) 書き換え時の電界緩和技術を開発
今後、さらなる車載アナログの高性能化、マイコンとの1チップ化に伴い、アナログ回路のチューニング用途から、市場でのオートフィッティング機能やデータロギング機能など、フラッシュメモリに求められる書き換え回数が増加していくことが予想されます。今回、新たに書き換えパルスにASPC(Adaptable Slope Pulse Control)技術を開発することで従来よりもスムーズなパルス生成を行い、メモリセルの特性悪化要因となる電界を緩和することが可能となり、1億回以上の書き換え耐性を達成しました。
(3) 書き換え電流の低消費化技術を開発
書き換え時のパルス印加をASPC化することにより、パルス印加時の電流値をモニタし、最適なクロック周波数を自動切り替えする技術を開発しました。これにより書き換え時の消費電流を98μA(マイクロアンペア:100万分の1アンペア)まで削減し、0.07mJ/8kBの書き換えエネルギを達成しました。
(4) エコカーシステムの低電力化に貢献
アイドルストップ機能によるエンジン停止時に、フラッシュメモリへの書き換え制御を自分自身で制御するIPEMU(Idling Program Erase Management Unit)機能を新たに開発することで、フラッシュ制御のために起動していたCPU、SRAMを停止することが可能となり、アイドル状態時の電力を99%削減することが可能となります。
今回当社は、これらの技術を適用した、90nm 1トランジスタMONOS構造フラッシュによる128kB(キロバイト)フラッシュメモリを試作し、業界初となる1億回の書き換え耐性と、書き換え電流98μAを実現しました。書き換え電流は従来比で2桁少なく、これにより0.07mJ/8kBの書き換えエネルギを達成しました。
ルネサスは、本フラッシュメモリ回路技術を用いることで、より高性能・高信頼性を備えた車載アナログデバイス向けフラッシュメモリの実現に大きく貢献できると期待しています。
また、様々なプロセスに容易に搭載可能であり、この低消費電力という特長からIoTアプリケーションにも適用が広まることも期待しています。
なお、当社は今回の成果を、2016年1月31日から米国サンフランシスコで開催された「国際固体素子回路会議(ISSCC 2016(International Solid-State Circuits Conference 2016)」にて、現地時間の2月2日に発表しました。
以 上
(注1)MONOSとは、Metal Oxide Nitride Oxide Siliconの略。ルネサスでは、EEPROM製品・セキュアマイコン等に20年以上適用し、量産実績を有するMONOS技術をマイコン内蔵用のフラッシュメモリに適用している。また、その際、独自のトランジスタ構造を開発している。
(注2)Tjとは、ジャンクション温度のこと。チップの接合温度を示す。
(注3)機電一体とは、メカニカルに動く機械部分と電気電子回路部分を一体化して、小型・軽量・省エネ化を図ること。
(注4)e-fuseとは、CMOSプロセスに搭載可能な1回書き込み型の不揮発メモリ(One Time Programmable read only memory:OTP)
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