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産業ネットワークの進化とベストプラクティス

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Kayoko Nemoto
Senior Staff Marketing Specialist
掲載: 2023年2月8日

インテリジェント機器、システム、人材を統合し、製造プロセスに変化をもたらすというコンセプトを掲げるインダストリー4.0。その目的は、作業効率を高め、生産工程を最適化し、工場ラインの変更に柔軟に対応することです。技術的な強化に加え、人の役割を定めることにより、インダストリー4.0は新しい働き方をもたらします。コンピュータ化、相互接続性、AIの統合によって、労働の安全性と効率性を最大化するのです。特に産業ネットワークはフィールドデバイス間で情報を交換し、現場である工場で瞬時にデータへアクセスできるよう産業インフラの異なる階層間を繋げる鍵となります。ここでは以下のような目標が立てられています。

  • マルチベンダーのシステムおよびデバイス機器間の接続性と相互運用性により、適応性と拡張性を実現
  • 信頼性の高い工場運用に向けたデータベースへの伝送やアクセス時の整合性と安全性の担保
  • タイムリーな分析・判断のために、伝送の遅延やレイテンシの最小限化
  • 音声、データ、ビデオ画像伝送を統合し、一貫した情報の提供

ネットワーク接続する機器の動作を定義し標準化するため、1980年代にOpen Systems Interconnection(OSI)モデルが開発されました。OSIモデルには7つの層があり、それぞれが独自の役割を担っています。下の図1が示すように、各層が上下の層と連携して、システムやネットワーク間のエンドツーエンドの通信を可能にします。アプリケーション(最上位またはアプリケーション層)からの情報は、7つの層の相互依存と相互サービスによってパッケージ化され、様々な物理ネットワーク(最下層)を介して伝送されます。

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図1。OSIモデル階層別の役割

技術に関係なく単一の制御ユニットでネットワーク上の多くのI/Oを管理できるため、産業ネットワークは不可欠なコンポーネントとなっています。工場のネットワーク制御のアーキテクチャには、モーター制御、モーションコントロール、ロボット工学、および従来のプログラマブルロジックコントローラ(PLC)が含まれます。下表が示すように、現在主に使用されている産業ネットワーク技術として、産業用イーサネット(EtherCAT、Profinet、EtherNet/IP、CC-Link IE、Modbus-TCP、POWERLINK、SercosIII、OPC-UA)とフィールドバス(Profibus、Modbus RTU/ASCII、DeviceNet™、CANopen、Asi-5、IO-Link)が挙げられます。産業オートメーションでは、PLC、SCADA、DCSを介してオブジェクトを制御します。これにはフィールド機器、スマートフィールドデバイス、監視制御PC、リモートI/Oコントローラ、ヒューマンマシンインターフェース(HMI)システムなどが使えますが、これらの機器を接続して通信するには強固な通信ネットワーク戦略が必要となり、データや制御信号はワイヤレスまたはケーブルで送信されます。同じくセンサネットワークは、小型の電源付きデバイスのグループと無線または有線ネットワークインフラで構成され、過酷な工場現場の状態などを把握します。センサネットワークにおけるノードは、協調して環境を感知・制御し、M2M(マシン・ツー・マシン)、H2M(ヒューマン・ツー・マシン)またはその逆の相互作用を可能にします。

物理層プロトコルプロトコル詳細情報ネットワークコントローラネットワークフィールドネットワークセンサネットワーク
産業用イーサネットEtherCAT®ETG(EtherCAT Technology Group)によるベンダーIDを得るのに特定のハードウェア(HW)が必要、ユーザーは無料でベンダーIDが取得可能  
PROFINET2つの主要クラスがあり、RTはSWベースで開発可能、IRTは特定のHWが必要。PI(PROFIBUS & PROFINET International)がProfinet、Profibus、および認証用テストラボを管理  
EtherNet/IPSWベースで開発され、ODVAがEtherNet/IP、DeviceNet、認証用テストラボを管理  
CC-Link IE1Gbpsの広帯域を実現するため、CC-Linkデバイス専用のHWが必要  
POWERLINKCANopen通信プロファイルであり、µsマイクロ秒のハードリアルタイム要件のアプリケーションに最適  
SercosⅢモーション制御用の高い同期化が特徴  
Modbus/TCPModicon Inc.により開発され、現在はSchneiderが所有  
OPC-UAOPC Foundationによって開発された、IAのためのM2Mコミュニケーションプロトコル 
フィールドバス(シリアル通信)DeviceNet™Allen-Bradleyによって開発され、現在はRockwellが所有  
Modbus/RTU, ASC IIModbus/TCPを参照  
PROFIBUSPROFINETを参照  
IO-Linkデジタルセンサとアクチュエータ間の接続に特化   

情報ネットワークや制御ネットワークで使用される機器の市場トレンドは、CANやRS-485などのシリアル通信から産業用イーサネットに移行しています。市場側の需要も、他レイヤーとの接続やビッグデータの集中管理など、よりリアルタイム性の高い運用に変化しています。産業分野でますます普及するイーサネット接続が、製造プロセスの効率性と信頼性を向上させるための新たな手法開発の扉を開いているのです。機械、ロボット、その他の産業用オートメーションアプリケーションに使用される産業/操作技術(OT)環境において、イーサネットは、ゆっくりと、しかし着実に従来の通信プロトコルから置き換えられてきました。従来のフィールドバスと比較してもより信頼性が高く安全なサービスを提供できるため、イーサネットの利用は増加傾向にあります。あらゆるタイプのOT環境では、イーサネット対応機能を活用して新たな方法で機械、ロボット、その他の重要な自動化機器を統合し、生産性、歩留り、稼働率、製品品質、そして全体的な収益性を高めようとしています。OEM (Original Equipment Manufacturers)は、イーサネットポート、センサ、デバイス、その他の有効なコンポーネントを利用して、競合他社との差別化を図り、ターゲット顧客のニーズによりよく応えることができます。イーサネットはミリ秒単位の正確さで長距離通信を行えるため、最終的にはほとんど人を介さず工場を稼働できるようになるかもしれません。かつてないほど大量のリアルタイムデータの収集を可能にしているのがイーサネットのスピードと帯域幅です。産業用イーサネットは、機械メーカーとユーザーの両方がネットワークの設計とプランニングに関与することで、長期にわたる協業と成功を促します。さらに双方を巻き込んだ、新たなビジネス機会を創出します。また、イーサネットにより、診断やステータスデータへのリモートアクセスが迅速かつ容易となりました。エンドユーザーは、緊急時のダウンタイムやコストをかけずに、製造元の優秀なグローバルチームへ迅速にアクセスが可能になるかもしれません。イントラネットからつながる産業用イーサネットを定義する際に、冗長性と確定性が重要な要素となります。つまり、産業用イーサネットは、工場の騒音、工場のプロセスニーズ、より厳しい環境への応対など、最適化された信頼性とセキュリティを以って、工場現場でのデータ衝突にさえ取り組むことができるのです。

さて、イーサネットを利用する大きな利点の1つとして、高速産業プロセス、例えば組立ラインの機械間で適切な切り替えのタイミングを、ミリ秒あるいはナノ秒で一貫して再現可能な方法で管理できることが挙げられます。また、産業用イーサネットにおいて極めて重要な性質は、Time Sensitive Networking(TSN)などの将来の産業ネットワークアプリケーションのための優れたプラットフォームにつながります。図2は、その主な特徴をいくつか説明しています。

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図2。TSNの主な特徴

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図3。IT-OTのコンバージェンスに欠かせない要素

工場現場では、TSN(IEEE 802.1で定義)タイプの決定論的イーサネットフレームワークが、時刻同期、フレーム割り込み優先転送、ポリシング、送信制御(タイムアウェアシェイパー)など、さまざまなTSNプロトコル機能の利点を提供します。サイバーフィジカルシステムはインダストリー4.0の中核をなすもので、これらのシステムには、サイバースペースでの実践が必要です。そのためには、工場の上位層にあるオペレーショナルテクノロジー(OT)と情報技術(IT)のネットワークを収束させなくてはいけません。TSNやAI/MLに基づくネットワークの自動再構成などの技術を使って実現可能ですが、これらはまだまだ産業アプリケーションの未来を左右する発展段階です。

シームレスなリアルタイム通信は、インダストリー4.0およびIIoT(インダストリアルIoT)の実装には欠かせない前提条件です。そこでルネサスでは、EtherCAT、PROFINET、EtherNet/IP、Modbus、CC-Linkなど、主要な産業用Ethernet & Fieldbusプロトコルに対応するクラス最高の通信コンポーネントをご用意しています。これらのソリューションにはすべて、包括的なソフトウェアサポートが付いています。例えば、R-IN32M3はマルチプロトコル産業用イーサネットソリューション(PROFINET、EtherNet/IP、EtherCATなど)に対応し、製品開発のスピードアップ、迅速な市場投入を叶える認定ハードウェアおよびソフトウェアソリューションです。図4ならびに5を参照ください。

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図4。Block Diagram of Software Layers

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図5。R-IN32M3 Module Solution Block Diagram

R-IN32M3の次レベルにあたる産業用イーサネット(IE)通信用R-IN32M4-CL3は、次世代イーサネットTSN技術の通信規格であるCC-Link IE Time Sensitive Networking(TSN)に対応。同様に、TSNに準拠した3ポートのギガビットイーサネットスイッチとEtherCATスレーブコントローラを内蔵した最新MPUであるRZ/T2M、RZ/N2Lは、EtherCAT、Profinet IRT/RT、EtherNet/IP、OPC UAなどの産業ネットワーク通信プロトコルをサポートしています。

さらに、産業ネットワークのスレーブ機器にRX72M(高性能32ビットマイコン)を使用する際の開発期間短縮を目的とした、ルネサスRX72Mベースのネットワークソリューションがございます。これらはロボット端末のモータドライバ、小型PLC(Programable Logic Controller)、リモートI/Oなどに利用いただけます。

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RX72M

図6。RX72M

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図7。RX72M産業ネットワークソリューション

RX72Mネットワークソリューションは、RX72Mを搭載した評価ボードと、OS、ミドルウェア、産業ネットワーク通信プロトコルのサンプルソフトウェアで構成され、市場の主要産業ネットワーク通信プロトコルの約70%に対応しており、お客様の製品開発における競争力を強化します。RX72Mソリューション(パートナーSWを含む)は、OPC UA、EtherCAT、PROFINET RT、EtherNet/IP、Modbus TCPなどの幅広い産業用Ethernetプロトコルに対応するよう設計されており、産業デザインに柔軟性と複数のネットワークオプションを与えます。

ルネサスでは、シングルプロトコルおよびマルチプロトコルの通信オプションに対応した幅広いMCU/MPUを揃え、様々なファクトリオートメーション事例をご紹介しています。シングルプロトコルを採用したデバイスは、コンパクトな設置面積と低コストを、マルチプロトコルを採用したデバイスはユニークな環境といった利点もたらします。ルネサスの産業イーサネット対応MCU/MPUの特徴は冗長性があること、カスタム仕様の製品開発を可能にすることです。さらに、任意のレイヤー通信を活用いただけます。マルチプロトコルデバイスの中には、2つの産業用プロトコルを同時に実行できるものがあります。つまり、お客様には産業イーサネットプロトコル間のゲートウェイを開発していただけるのです。この事は堅牢な産業ネットワークソリューションの開発において、ルネサスが理想的な選択肢となることの証と言えるでしょう。

以前のブログ投稿:

[1] インダストリー4.0における産業用ネットワーク

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