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Mohammed Dogar
Mohammed Dogar
MCUビジネス開拓担当Vice President
掲載: 2024年4月18日

ビジョンAIは、急速に成長している組み込みAI分野のひとつです。AIを活用した音声ツールやリアルタイム分析と並んで、大量のデータを迅速に収集、学習、処理する手段として活用されつつあります。ITR Economicsの予測によれば、ビジョンAI市場の規模は2020年の5億ドルから2025年には13億ドルに拡大し、年平均成長率は22%に達する見通しです。

クラウド接続への依存を軽減し、ネットワークの末端であるエッジでAIを実現しようとする産業界の動きが、組み込みビジョンAIの需要を高めています。エッジベースのAIシステムを導入すれば、エンドユーザはこれまで想像もできなかったほどの規模とスピードで、的確な判断を行えるようになりますが、その際には、最適化された処理速度、消費電力、使いやすさを追求する必要があります。

組み込みソリューションのリーダとして、ルネサスは幅広い顧客にAIのメリットを提供していますが、2024年2月に最新のビジョンAIソリューションであるRZ/V2H MPU を発売しました。RZ/V2Hは、産業、家庭、オフィス、スマートシティの新しいロボティクスオートメーション向けに開発されました。クラウドベースのソリューションにつきものの、コストやレイテンシ、消費電力のペナルティなしに、設計者がエッジやエンドポイントにビジョンセンシングシステムを迅速かつ容易に組み込めるようになります。

ビジョンAI処理パフォーマンスの向上

クアッドコアを搭載するRZ/V2Hは、最大4台(付属のUSBポートを使用する場合は6台)のカメラをサポートすることでマルチ画像処理を高速化し、工場設備、ロボティクス装置、輸送システムなどのさまざまなエンドアプリケーションの精度を向上させます。

基本的な性能という点では、RZ/V2Hプラットフォームにはルネサスの第3世代の動的再構成プロセッサ(DRP)が搭載されています。独自のAIアクセラレータであるDRP-AI3 は、従来モデル比で10倍もの性能向上を実現しました。これにより、新しいMPUプラットフォームの処理速度は、前世代MPUの0.5~1.0 TOPS(Trillion Operations Per Second)から80TOPSにまで向上しました。

ルネサスはまた、独自のDRP技術を駆使し、OpenCV Accelerator を開発しました。これにより、コンピュータビジョン処理用の業界標準のオープンソースライブラリであるOpenCVの処理を高速化できます。OpenCV Acceleratorを使うことにより、従来のCPUよりも16倍速くデータを処理し、AIコンピューティングと画像処理アルゴリズムの両方を強化します。

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RZ/V2H MPU with Integrated AI Accelerator

 

AIビジョンシステムのファンとヒートシンクが不要になる省電力設計

DRP-AI3アクセラレータの高度な設計により、この新しいMPUプラットフォームは、電力効率を10TOPS/Wに向上し、従来のソリューションに比べて10倍の省エネを実現しました。この省電力設計によって、ファンやヒートシンクなどの放熱部品が不要になり、電力効率が重要なネットワークエッジで動作するAIアプリケーションのスペース、コスト、設計時間を大幅に節約できるようになりました。

ルネサスは、AIアクセラレータとメインプロセッサ間の連携をはじめとするハードウェアとソフトウェアへの新たなアプローチによって、さまざまなアルゴリズムをより迅速に処理できるようになりました。DRP-AI3アクセラレータの省電力化のイノベーションは他にも、ニューラルネットワークデータの低ビット化による量子化や、認識精度に影響しない重み情報(枝)の計算を省略する手法であるプルーニング(枝刈り)による軽量化手法も取り入れています。

ルネサスのビジョンAI MPUプラットフォームがユーザの利便性を向上

ルネサスは、ユーザの使いやすさを追求するため、学習済みモデルのAIアプリケーションライブラリとAI SDKに加え、RZ/V2H評価ボードをリリースしました。これらの新しいツールを組み合わせれば、エンジニアがAIに関する豊富な知識を持っていなくても、設計プロセスの早い段階でアプリケーションを簡単に評価できるようになります。また、さまざまな用途向けに無料でダウンロードして使用できる50 以上の応用例が用意されています。さらにもう50の応用例も間もなく発表予定であり、設計者はこの中からユースケースに似たソフトウェア利用することで早期にビジョンAIシステムを開発できます。

  • 欠陥検査: 工場の生産を監視し、製品の外観不良を検出
  • 産業用タッチレス制御: ハンドジェスチャにより物理的な制御を実施
  • 農作物の保護: 迷い込んだ動物や野生動物が農作物に被害を与える前に農家に警告を発信
  • エレベーターの使用: タッチレス制御と乗客カウントを実現
  • 駐車場の予約: 駐車場の空き状況をリアルタイムで把握
  • スマートPOS: 小売店のレジを最適化

将来的には、エッジにおける生成AIがビジョンAIを補完し、特定のデータ実行ニーズや望ましいパフォーマンスレベルに応じて、新たなレベルで設計が複雑化することが予測されます。現在の生成AIはまだ今のところ、膨大なデータセットの処理に使用される、大きなコストとパワーのかかるオプションの1つにすぎませんが、やがてこの2つが連携して機能し、柔軟でスケーラブル、かつコスト効率の良い意思決定を実現できるようになると思われます。

この2つの組み合わせにより、今まで以上に複雑な画像処理だけでなく、組み込み型ビジョンシステムと他のAI処理モデルの統合も可能になるかもしれません。いずれにせよ、AIをネットワークエッジで活用するトレンドは必ず到来するでしょう。

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