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時間変動を伴うトランジスタ特性ばらつき現象(RTN)を考慮した包括的な回路設計手法を開発

2010年6月18日

 ルネサス エレクトロニクス株式会社(代表取締役社長:赤尾 泰、以下ルネサス)はこのたび、今後の微細トランジスタを用いたLSIの高信頼動作に対して問題となることが予測されるランダム・テレグラフ・ノイズ(RTN= Random Telegraph Noise)について、その影響を考慮しつつ信頼性の高い回路を設計するための一連の手法を開発いたしました。

 RTN(注1)とはトラップ(注1)に1個の電荷が出入りすることでトランジスタの特性が時間とともに不連続に変動する現象であり、微細化の進展に伴い問題になる可能性が指摘されています。RTN現象は材料の性質に起因した除去困難な現象と考えられ、信頼性の高いLSIを実現するためには、RTN現象が生じたとしても誤動作することがないよう適切に設計されることが必要です。

 今回開発した手法はこの問題を解決するものであり、実際のSRAM(注2)を特殊な条件(加速条件)で動作させることでRTNによる誤動作を意図的に発生させる加速試験、その結果を元に実際の使用条件において誤動作が発生する確率を高速に計算するシミュレーション手法、そして測定でとらえきれないトラップの影響を補正する手法から成り、これらを組み合わせることでRTNによる誤動作を防ぐことのできる信頼性の高い回路を設計することが可能となります。

 このたび開発した技術は以下の通りです。

1. 加速試験方法を開発

 SRAMの動作電圧を実使用と異なる、動作マージンが狭くなる厳しい条件とし、記憶ビットが誤動作を起こしやすい状態でSRAMからデータを繰り返し読み出すことで、RTNによるSRAM誤動作の発生率を直接把握する方法を開発した。

2. SRAM誤動作が発生する確率を実用的な時間で計算するシミュレーション手法を開発

 個々のトランジスタに存在するトラップの数、各トラップが引き起こす特性変動の幅(振幅)、各トラップの遷移時定数の統計的分布に基づき、一定期間(例えば製品寿命である10年)の間にトランジスタや回路で生じる特性変動の最大幅を実用的な計算時間で算出するシミュレーション手法を開発した。

3. 測定でとらえきれないトラップの影響を取込む手法を開発

 測定で検出できないトラップの影響を加速試験の結果を元にシミュレーションに反映させる手法を開発した。これにより、加速試験で観測された読出し回数増加に伴う誤動作ビット数の増大を厳密に再現できた。本シミュレーションの活用により、実際には実験で検証することが不可能な長時間にわたる信頼性を計算により予測し、適切な回路設計を実現することができる。

 RTNはトランジスタ特性を時間とともに変化させる現象ですが、その変化の仕方が個々のトランジスタによってそれぞれ異なる一種のばらつき現象でもあります。しかし、トラップの数、振幅、時定数の統計的分布は個別のトランジスタを多数測定してもその全容を完全に把握することは困難です。なぜなら、トラップの中には非常に高速で遷移を起こすために測定器で検出できない、あるいは非常に稀にしか遷移しないため有限の測定時間では検出できないトラップが存在するためです。このような見えないトラップについては、その存在を適宜理論的に仮定することによりシミュレーションを実施する必要がありますが、この仮定には不確実性が残ります。この問題に対応するために、シミュレーションと回路の加速試験とを組み合わせました。加速試験結果を元にシミュレーションを校正することで、シミュレーションの不確実性を大きく減らすことができます。

 今回の成果により、RTNに対する信頼性を確保した適切な回路設計を、より確実に実現できるようになりました。ルネサスは今後も高性能かつ高品質な製品を提供し続けるため、RTNも含めたばらつき現象に関する研究・開発を積極的に展開していく予定です。

 なお、当社は今回の成果を、本年6月15日から17日まで、米国ホノルルで開催される学会「VLSI技術シンポジウム(2010 Symposium on VLSI Technology)にて、現地時間の17日に発表しました。

以 上

(注1) RTN、トラップ
トラップとは、そこに電荷1個が出入りできる微小な欠陥。トラップは電荷が溜まっている状態と空の状態を行き来し、それに対応してトランジスタの導電性は2つの状態の間を時間的に変化する。この現象をRTNと呼ぶ。トラップに電荷が溜まっている状態と空の状態の間を行き来する時間間隔(時定数)、行き来によるトランジスタの特性変化の幅、さらに1個のトランジスタ中に存在するトラップの数は偶然によって決まる。2個以上のトラップが存在すれば特性変化の幅は加算されて大きくなる。

(注2)SRAM
1ビットの情報を6個のトランジスタから成る記憶セルにより記憶するランダムアクセスメモリ。LSIの基本構成要素であり、また微細トランジスタを用いることからRTNの影響を受けやすい。

*本リリース中の製品名やサービス名は全てそれぞれの所有者に属する商標または登録商標です。


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