メインコンテンツに移動

SIMD搭載により信号処理性能を強化した次世代V850コアの開発について

~リアルタイム制御とDSP並みの信号処理性能を両立~

2010年9月2日

 ルネサス エレクトロニクス株式会社(代表取締役社長:赤尾 泰、以下ルネサス)はこのたび、FA機器やエンジン制御などの車載制御ユニットをはじめとする組込みシステムの処理性能向上へのニーズに応えることを目的として、リアルタイム制御とDSP並みの信号処理性能の両立を実現する32ビットCPUコア「V850E2H」を開発いたしました。

 V850E2Hは、(1)4個のデータに対する演算処理を1命令で実行できるSIMD(single instruction multiple data)対応の演算器(コプロセッサ)の内蔵により、DSPを外付けすることなく高い信号処理性能を実現するとともに、(2)ループ命令などを高速に実行する分岐予測器の搭載などにより、基本命令で構成された信号処理を含まないプログラムにおいても実行性能の10%程度向上を達成していることが主な特長です。これにより、V850E2HをCPUコアとして適用されたマイコンは、組込みシステムへの応用が容易となります。

 FA機器や車載制御ユニットなど、高速な信号処理が必要とされるリアルタイム制御システムの分野では、近年、電子化が急速に進んでおり、信号処理に必要な処理性能は加速度的に上昇しています。現在、ハイエンドな組込みシステムは、制御を行うCPUのほか、信号処理を行うDSPで構成されているのが一般的ですが、低速なメモリなどを介して通信しなければならない外付けのDSP等では、割り込みに応じて処理内容を変更する場合、同分野では必要不可欠な高い割り込み応答性能を維持することが非常に困難でした。さらに、このようなハイエンドな組込みシステムでは、制御プログラムはCPUの、信号処理プログラムはDSPの、各開発環境で設計・検証した上でCPUとDSPの協調検証も実施するため、開発工数が増大するという課題がありました。

 ルネサスは、これらの性能向上や開発工数の負担減というニーズに応えるため、V850E2Mなど従来のCPUコアで培ってきた高い制御性能と高い信号処理性能を両立させる技術として、信号処理拡張を含む「V850E2v4アーキテクチャ」を開発いたしました。V850E2v4アーキテクチャは、従来のアーキテクチャに対し制御性能と信号処理性能の両立に向けて、基本機能の強化および信号処理向けSIMDの拡張を新たに導入したもので、V850E2Hは同アーキテクチャに準拠した最初のCPUコアです。

 V850E2Hの主な特長は以下の通りです。

(1)SIMD拡張によりDSP並みの信号処理性能を実現

 信号処理性能強化のため、SIMD命令、CPUと並列に動作するSIMD演算器およびSIMD演算器専用ベクトルレジスタ(64ビット)を追加。従来のV850E2Mと比べ信号処理拡張命令を実行する専用パイプライン、ループ命令などを高速に実行するコンパクトな分岐先予測器を追加で搭載しているため、従来のDSPに匹敵する信号処理とリアルタイムシステム制御とを、DSPを外付けすることなくマイコンのみで実行できる。

(2)従来CPUコアと比べてコードサイズ当たりの性能が向上

 C言語で記述したフィルタプログラム(注1)を従来のCPUコアで実行した場合で比較すると、V850E2Hでは、3分の1のプログラムサイズでありながら、実行時間は約12分の1と、コードサイズ当たりの性能を飛躍的に向上している。

 ローカル分岐履歴に基づく分岐予測、ループ最適化命令、長距離条件分岐などの基本機能を強化したことにより、V850E2Hは従来CPUコアと比べて、信号処理を含まないアプリケーションプログラムにおいても約5~12%の性能向上を達成している。

 またV850E2Hでは、基本命令と信号処理拡張命令がCPU内部のパイプラインで実行されるため、すべての命令で割り込みを受け付けることができる。

(3)プログラムの開発工数を削減

 DSPの外付けが不要となることから、制御プログラムと信号処理プログラムのいずれもCPU向けプログラムの開発環境で設計・検証可能。従来はCPUとDSP個別の開発環境で設計・検証していたため、最終的に協調検証する工数を削減できる。

(4)従来CPUコアとの互換性の維持

 V850E2Hは、従来CPUであるV850E2Mと、基本命令セットのオブジェクトレベルの互換性を保証している。また、V850E2Mで搭載されているIEEE754規格準拠の浮動小数点演算器は、V850E2Hでも搭載可能となっている。

 ルネサスは、V850E2Hが、高い制御性と信号処理性能を両立するとともに、FA機器の制震処理、車載レーダーや自動車のエンジンの燃料効率を監視するノッキングセンサなどの車載制御ユニットといった、高度な解析アルゴリズムを必要とする制御システムのプログラム開発に貢献できる技術と位置づけ、今後、マイコンへの適用を図って新しいソリューションとして提供いたします。

以 上

(注1)16ビット128点FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)の場合。

*本リリース中の製品名やサービス名は全てそれぞれの所有者に属する商標または登録商標です。


ニュースリリースに掲載されている情報(製品価格、仕様等を含む)は、発表日現在の情報です。 その後予告なしに変更されることがございますので、あらかじめご承知ください。

この記事をシェアする