~次世代DDR4インタフェースをワイヤボンディングパッケージで実現可能に~

2010年6月4日

 ルネサス エレクトロニクス株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:赤尾 泰、以下ルネサス)はこのたび、米国Physware, Inc.の電磁界解析ツールを用いて、ワイヤボンディングパッケージ内部に特有の、信号-電源-グランド(注1)間における電気信号の複雑な相互作用を高精度に電磁界解析するとともに、正確な同時動作シミュレーション(注2)を実施する手法を開発いたしました。これにより、1秒間に2ギガビット以上のデータ転送を可能にする次世代DDR(Double Data Rate)方式のメモリインタフェースを低コストなワイヤボンディングBGA(Ball Grid Array)タイプのパッケージで設計することが可能となります。

 今回開発した電磁界解析技術およびシミュレーション手法は以下のとおりです。

1)
米国Physware, Inc.の協力により導体表面にのみ計算要素を配置する境界要素法に基づく電磁界解析ツールを用いて、ワイヤボンディングタイプのパッケージ内部を解析。32ビット以上の信号線・電源およびグランドを含む3次元構造を、直流に近い低周波から20ギガヘルツの高周波まで広帯域にわたって高精度かつ短時間で解析することに成功した。信号・電源およびグランド全てを同時に解析することにより,電気信号が運ぶ電荷を中和するために、信号と逆向きに戻ってくる、いわゆる「帰路電流」の解析精度を向上することができた。

2)
上記の解析で得られたモデルと、プリント配線板などメモリシステムの構成要素となる他のモデルを結合する際に発生する帰路電流経路の不連続を解消するシミュレーション手法を開発した。まず信号と電源間の結合が間接的にグランドを含むことを利用して、広帯域電磁界解析結果から帰路電流経路モデルとグランド端子を生成した。次に生成されたグランド端子同士を相互に接続することにより帰路電流の連続性が保証され、実特性に近い高精度なシミュレーション結果を得ることができた。

 近年、パソコンや通信機器だけでなく、コンシューマ用途においてもDDR3をはじめとするメモリ帯域の拡張はめざましく、速度向上と並行して低コスト化が望まれています。しかし低コストなワイヤボンディングパッケージは特にワイヤ間の相互作用が強く、伝送特性に悪影響を及ぼす場合があるため設計が困難であり、通常は高性能かつ高価なフリップチップパッケージなどが採用されております。

 当社は従来から、低コストなワイヤボンディングBGAパッケージ向けの高速差動信号設計技術を開発しております。高速差動信号の場合は比較的信号数が少ないため、全ての相互作用を計算しても規模については問題となっていませんでした。しかし、高速メモリインタフェースでは32ビット程度の高密度配線部の電磁界解析を行う必要があります。そのため、大規模な3次元構造の電磁界解析技術と高精度なシミュレーション手法の実現が課題となっていました。

 また高周波帯の電磁界解析においては、一般に最寄りのグランドに対する電磁界の周波数応答しか求められないため、個別の解析結果間では帰路電流経路(グランド)の連続性が保証されません。そのため従来行われていた、単純に複数の解析結果を結合したシミュレーションモデルを用いた場合、モデル接続方法に起因する帰路電流の不連続が発生し、実特性より信号波形が劣化する傾向がありました。そのため、低コストなワイヤボンディングパッケージよる製品設計が困難な状況にありました。

 当社は、今回開発した電磁界解析技術とシミュレーション手法を、ワイヤボンディングBGAパッケージに封入した32ビットDDRインタフェースをもつLSIに適用し、プリント配線板モデルも含めた同時動作シミュレーションを行い、同時動作の挙動を正確に表現できることを確認しました。

 当社は今後、このたび開発したシミュレーション技術をDDR4などの次世代高速インタフェースを搭載するパッケージ設計に応用し、高性能化と低コスト設計の両立を推進してまいります。

 なお、当社は今回の成果を、6月1日から6月4日まで米国のネバダ州ラスベガスで開催されるパッケージ技術に関する国際学会「The 60th Electronic Components and Technology Conference(ECTC2010)」にて、現地時間の3日に発表いたします。

以 上

(注1)電圧の基準点につながる導体。

(注2)複数の信号を同じタイミングでON/OFFすること。瞬間的に大きな電流が流れることになるので、最悪に近い動作条件とされている。

*本リリース中の製品名やサービス名は全てそれぞれの所有者に属する商標または登録商標です。


ニュースリリースに掲載されている情報(製品価格、仕様等を含む)は、発表日現在の情報です。 その後予告なしに変更されることがございますので、あらかじめご承知ください。

この記事をシェアする