ルネサスの竹原と申します。
私は、バッテリマネジメントシステム評価キットのアプリケーションモデルとソフトウェアの開発に携わっています。
本ブログでは、ルネサスが提供するバッテリマネジメントシステム（BMS：Battery Management System）のアプリケーションモデルとソフトウェアについて紹介します。
1. BMSアプリケーションモデルとソフトウェアについて
電気自動車で一般的に使用されるリチウムイオンバッテリは、エネルギー密度が高く、軽量という利点があるものの、誤った使い方をした場合は発火事故につながる可能性があり、注意が必要です。そのため、リチウムイオンバッテリを効率的、かつ安全に使用するためには、バッテリの充電状態（SOC：State Of Charge）と健全状態（SOH：State Of Health）を知る必要があり、BMSがその役割を担っています。従来、これらの状態パラメータは、電荷量の積算（クーロンカウンタ）と、セル電圧のSOC特性から算出するのが一般的でした。近年では、推定アルゴリズムを適用することで、より高精度な推定が可能となっています。
ただし、推定精度を上げるためには、対象のバッテリ特性を考慮して、推定アルゴリズム内で使用するパラメータを調整する必要があります。しかし、パラメータの調整には評価を繰り返し行う必要がありますが、バッテリの充放電時間を考えると莫大な時間が必要となります。また、上記でも触れたバッテリ特有の発火リスクなどもあり、評価時には細心の注意が必要となります。加えて、近年航続距離を延ばすためにバッテリの高電圧化や大容量化が進み、評価時に1,000Vを超える電圧を大電力で扱うケースもあり、感電等のリスクが高くなっています。
これらの開発工数や安全面の問題に対して、モデルベースシミュレーションを活用することで、解決することができます。一例ですが、シミュレーション時間は実環境で充放電を行う時間の1,000分の1と大幅に短縮され、また、仮想環境は感電や発火のリスクもありません。
ルネサスでは、サンプルアプリケーションモデルとソフトウェアを提供することで、お客様の開発負担を軽減します。
2. BMSアプリケーションモデルとソフトウェアの利点
ルネサスの提供するBMSアプリケーションモデルとソフトウェアには4つの利点があります。
1つ目の利点は、実機評価で発生する手戻りの削減です。設計段階からシミュレーションを実現するためのSimulinkサンプルアプリケーションモデルを提供します。Simulinkモデルでは、SOCとSOHを推定するブロックが提供されており、実機評価前にPCでシミュレーション結果を確認し、推定アルゴリズムを改善することができます。
2つ目の利点は、アプリケーションソフトウェアの開発工数削減です。ルネサスが提供するモデルは、マイコンで動作するソフトウェアを自動生成する仕組みを備えています。
3つ目の利点は、ドライバソフトウェアの開発工数削減です。ルネサスはBMIC（Battery Management IC）とIPD（Intelligent Power Device）を制御するサンプルドライバソフトウェアも提供しており、アプリケーションソフトウェアと組み合わせることで、お客様自身がプログラムコーディングをすることなく、実機動作が可能です。
最後に、PCシミュレーションからボード上でのコード実行まで、すべてをカバーするアプリケーションノートを提供します。このドキュメントは、ルネサスが提供する評価環境の学習に必要な時間を短縮します。
これら4つの利点によるお客様の開発工数削減効果は1.5か月以上と考えており、内訳は以下の通りです。
- アプリケーションモデルの作成 2Week以上
- アプリケーションソフトウェアの組み込み 2Week以上
- ドライバソフトウェアを用いたBMIC制御アプリの作成 1Week以上
- モデル開発環境、ソフトウェア開発環境、ボードの使用方法の習得 1Week以上
3. 2種類のBMS評価キット
ルネサスでは、これまでに紹介したBMSアプリケーションソフトウェアが動作する2つの評価キットをご用意しています。また、それぞれの評価キットには高い測定精度と優れた長期ドリフト性能を備えたBMICが搭載されています。
最初の評価キットは、5つのBMICと高い安全性を備えたASIL-D対応のRH850/P1Mが搭載されています。
2つ目の評価キットは、1つのBMICを搭載したボードとコストメリットのあるASIL-B対応のRH850/F1KM-S1搭載ボードで構成されています。
ISL78714XB-EVKIT1Z
Y-ASK-RH850F1KM-S1-V3
4. ルネサスの評価環境
実際のバッテリを使用してマイコンに搭載したソフトウェアを評価する場合、上述したように、充放電時間に時間を要し、また、安全面から異常状態の試験が困難です。そのため、ルネサスでは、再現性と安全性の観点からバッテリシミュレータを使用して評価しています。ルネサスが提供するアプリケーションモデルとソフトウェアはバッテリシミュレータにより実機評価しておりますので、安心してご使用いただけます。
最後に、本ブログを読んで興味を持っていただいた方は是非、以下のウェブから最新情報を入手し、お問い合わせください。