USB PD 徹底解説:2 of 5
PCやモニターも駆動できる電力(最大240W)を供給するUSB PD。安全性を確保しつつ高い利便性を実現しています。 どのような技術で安全と利便性を実現しているのでしょうか。
多彩な新機能
USBによる電力供給規格「USB PD3.2(以下、USB PD)」では、1つの端子から最大240Wもの電力を給電できます。多くの周辺機器を同時に動かせ、機器毎のACアダプタは不要になります。USB PDの特徴は、大電力だけではありません。給電側と受電側の役割を瞬時に切り替える「FRS(ファスト・ロール・スワップ)」や、無駄な発熱を生じさせることなく急速充電を可能とする「PPS(プログラマブル・パワー・サプライ)」や「AVS(アジャスタブル・ボルテージ・サプライ)」といった機能があります。今回は、USB PDの特徴と共に新機能を解説します。
もう5Vだけではない
従来のUSBでは、5Vの電圧のみが用いられてきました。しかし、多様なデジタル機器を動かそうとすると、5Vだけでは足りなくなります。急速充電やモータ駆動を考えると、より高い電圧が欲しくなります。装置で共用できるACアダプタのため、種々の装置の駆動を考えて、5V以外に9V、15V、20V、さらにExtended Power Range(EPR) 拡張コマンドに対応することで28V、36V、48Vまで標準電圧として対応できるようになっています(表1)。装置は標準電圧に合わせて動作できるように設計することでACアダプタの共有化が図れるわけです。
電流は、通常のUSB Type-C®のケーブル(3Aケーブル)では3Aまで、100W対応のケーブル(5Aケーブル)またはEPR対応のケーブルでは5Aまで流すことのできる規格になっています。こうして、最大240Wの電力供給を実現できるようになりました。
PDパワー | 5V | 9V | 15V | 20V | 28V | 36V | 48V |
---|---|---|---|---|---|---|---|
15W以下 | check1 | ||||||
15W超27W以下 | 3A | check1 | |||||
27W超45W以下 | 3A | 3A | check1 | ||||
45W超60W以下 | 3A | 3A | 3A | check1 | |||
60W超100W以下 | 3A | 3A | 3A | check2 | |||
100W超140W以下 | 3A | 3A | 3A | 5A2 | check3 | ||
140W超180W以下 | 3A | 3A | 3A | 5A2 | 5A3 | check3 | |
180W超240W以下 | 3A | 3A | 3A | 5A2 | 5A3 | 5A3 | check3 |
1 PDパワー/対象電圧で算出される電流値(A)。最大値は3A
2 PDパワー/対象電圧で算出される電流値(A)。5Aケーブル使用時の最大値は5A、ただし、3Aケーブル使用時の最大値は3Aに制限
3 PDパワー/対象電圧で算出される電流値(A)。EPR対応ケーブル使用の最大値は5A、単なる5Aケーブル時は20V@5Aまたは3Aケーブル時は20V@3Aまで
DC給電の共有化を実現する「パワールール」
たとえば、24Wで動作するデバイスがあったとしましょう。手元には27Wと記載されたUSB Type-C ACアダプタがあります。利用者はこのUSB Type-C ACアダプタをつなぐことはできるでしょうか? このような疑問、混乱を解消するため「パワールール」は定義されています。
パワールールを説明する前に、まず、USB PDの世界で使われている機器の呼称を定義したいと思います。今回のACアダプタのように給電する側を「ソース」、受電する側を「シンク」と呼びます。給電、受電という役割を示した用語と思って良いでしょう。
パワールールでは「ソースの電力値(Wattの値)≧ シンクの電力値(同)」ならば、動作することを保証するための機器設計ルールになります。これは、汎用ソースの給電能力を事前に知ることができるなら、その給電能力に合わせて動作するシンクは開発できるというコンセプトになります。先ほどの例の場合、シンクはソースであるACアダプタより電力が小さいため、正常動作できる必要があります。表1をシームレスにグラフ化したものが図1になります。
Source PDP Rating : ソースが供給できる定格のPDパワー(W)
例えば50Wと定義されるソースは5V, 9V, 15Vまたは20Vを標準電圧として給電でき、3A@5V , 3A@9V, 3A@15V, 2.5A@20Vを給電することができます。シンクが50W以下で動作可能と定義されるなら、これらの組み合わせの最低限一つで動作できるようにする必要があります。
USB PD3.2以前の規格に準拠したACアダプタは、標準電圧に加えて例えば12V出力をサポートする場合には、オプション対応が必要でした。一方、 USB PD3.2に準拠したACアダプタでは、SPR AVSの対応が必須となったため、図1のSource PDPが27Wより大きい製品は、9V以上の電圧であれば、AVSを利用して標準電圧の一部として12V出力も可能になりました。ただし、シンクは、たとえオプションの電圧やUSB PD3.2に対応したACアダプタをバンドルしたとしても、ACアダプタの共有化のため、標準電圧でも動作するようにする必要があります。
3Aを越える電流を流すためにはケーブルの損失の低い5A用またはEPR対応のケーブルを使う必要があります。5A用またはEPR対応のケーブルには必ずe-Markerと呼ばれる識別用の部品が搭載されています。図1のSource PDPが60Wを超えるソースは、給電を開始する前にe-Markerによってケーブルの対応能力を確認します。5A用またはEPR対応のケーブルと識別できない場合、最大電流は3Aに制限されるのでSource PDPが60Wを超える100Wや240Wのソースでも、供給電力は最大値が60Wになるように制限されます。
給電、受電の関係を一瞬で入れ替えるFRS(ファスト・ロール・スワップ)
第1回で少し紹介したFRSは、USBを使った給電の姿を大きく変えると期待される技術で、ソースとシンクの関係を短時間で切り替えるものです。例えば、図2のようなACアダプタを備えたUSBハブからノートPCへ給電している状態を想像してください。この状態でUSBハブへの給電がなくなった場合、ノートPCはバッテリーを使用して動作を維持できますが、ハブ自身は動作を止めます。この時ハブを介して他のデバイスと通信を行っていた場合、その通信は未完となってしまいます。FRSは、短時間(150μsec以内)にソースとシンクの役割を交換し、USBハブを含めてシステムの稼働を維持するようにする仕組みです。
ロール・スワップに関するさらなる解説はUSB PDの技術2 ~USB Type-Cとロール・スワップ~を参照ください
変換ロスを抑えるPPS(プログラマブル・パワー・サプライ)とAVS(アジャスタブル・ボルテージ・サプライ)
リチウムイオン蓄電池の代表的な充電方法では、まず電流を一定量流している状態で電圧を徐々に上げていく定電流充電を行い、その後電圧を維持して電流を徐々に下げていく定電圧充電を行います(図3)。
一般的な固定電圧を出力するAC アダプタで、リチウムイオン蓄電池を充電する場合、AC アダプタがリチウムイオン蓄電池の充電パターンを直接実現することはできません。例えば、定電流充電モード時の電流と定電圧モードで要求される電圧レベルを常時出力できるUSB AC アダプタをリチウムイオン蓄電池の充電器に接続した場合、充電器が入力されている電力を充電パターンに合わせて電圧、電流を変換して、リチウムイオン蓄電池を充電することになります。この場合、定電流充電モードでは、リチウムイオン蓄電池への印加電圧とAC アダプタが供給している固定電圧の間には、大きな電位差が発生します。一般的に、この電位差は熱に変換され、結果として充電効率を低下させることになります。
PPS (プログラマブル・パワー・サプライ)はUSB-PDのオプション機能で、5Vから20Vまでの範囲において、極めて小さなステップで電圧(20mV単位)、電流(50mA単位)を変化させることができます。このため、PPSに対応したソースをリチウムイオン充電器のようなシンクに接続すると、シンクからソースに細かなステップで電圧、電流の変化を要請できるようになります。結果として、図3の充電パターンの電圧・電流波形を持った出力をAC アダプタから出力させることができ、発熱および変換ロスを抑えることができるようになります。
一方、AVS (アジャスタブル・ボルテージ・サプライ) は、PPSのような複雑なものでなく、もっと単純な可変電圧のSourceが欲しいという要求が発端で規格されたものです。特に、ACアダプタで定電流動作に対応することは通常はないため、コストアップ要因になっています。AVSでは、9Vから48Vまでの範囲において、100mVステップで出力電圧を変化させることができる仕様になっています。
国際標準(IEC 63002)準拠と機器間認証で安全性を確保する
USB PDは、国際標準(IEC 63002)が定めた電源とデバイス間の通信も行えます。国際協定で、政府や一部の公共企業が調達する製品は国際標準に準拠することが求められていますが、USB PDを採用した製品は調達の場合に有利な立場を得られます。
また、USB規格の策定団体であるUSB-IFのコンプライアンス テストに合格することで、認証された製品としてUSBロゴマークの使用許諾を得ることができます。しかし、製品を目で見ただけでは、それが本当に認証された製品であるのか、そうでないのかはわかりません。それらを区別する仕組みとして導入されたのが機器間認証(USB Authentication /C-AUTH)になります。
ちなみにこのAuthenticationというのは日本語にすると、これも「認証」となってしまいます。実は従来の意味の「認証」は、英語ではCertificationと別の単語なので、これは日本語に訳すときのみの問題です。本稿ではAuthenticationの方を従来の「認証」と誤解されないように意訳して機器間認証(C-AUTH)としました。
今回はUSB PD3.1での種々の新機能を解説しました。次回は、USB Type-Cの接続シーケンスやUSBの自由度を上げるロール・スワップについて解説します
USB PD 徹底解説
- 便利さを増すUSB給電
- USB PDの技術 1〜安全と利便性を実現する技術〜
- USB PDの技術 2〜USB Type-Cとロール・スワップ〜
- 規格で守るUSB PDの安全性
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