私は2023年12月のブログインタビューで、ルネサスが長年にわたって開発したり、買収して得たワイヤレスコネクティビティソリューションの数々についてお話ししました。また、これらの技術や製品を、ルネサスの他のポートフォリオと組み合わせて、スマートなコネクテッドネットワークエッジとして統合するための戦略ビジョンについてもお話ししました。
ちょうどその後、2024年1月にルネサスは分野別から製品別の組織に変更することを発表し、アナログ&コネクティビティ製品グループが誕生しました。コネクティビティ製品群には、Bluetooth® Low Energy(LE)、Wi-Fi、UWB(超広帯域無線通信)、NFC(近距離無線通信)などが含まれます。
コネクティビティ市場の成長
このような戦略的再編成を実施したことで、当社は今後、急成長するコネクティビティの市場機会を活用する体制が整いました。コネクティビティソリューションのSAM(Served Available Market)は、2023年の40億ドルから2030年までに100億ドルに拡大すると見込まれています。
こうした素晴らしい予測は、家庭、職場、外出先で、様々なスマートネットワークエッジデバイスが使われるようになるなど、いくつかの成長要因によってもたらされます。まず、これらのエッジデバイスの大半は、非常に限られた電力で動作することになります。さらに、クラウドとエンドツーエンドでつながるために、シームレスに接続されることがますます重要になり。また、データソースに近いエッジ側でのリアルタイムコンピュートが増え、AIによっても強化され、データ量も増加するため、この市場成長をさらに加速させるでしょう。このようなコネクテッドデバイスの増加に伴い、セキュリティとプライバシが最重要課題となるため、これらの懸念に対応できるソリューションが、お客様の信頼を獲得し、規制要件を満たすために不可欠です。
課題の克服
この成長市場を十分に活かすためには、多くの技術的ハードルを克服しなければなりません。例えば、多くのエッジデバイスは、厳しい無線環境で動作寿命を延ばすために、バッテリや電源による電力と、コンピューティングに必要な性能のバランスを取る必要があります。
また、データの正確性と一貫性を維持することも非常に重要です。特に、分散システムやエッジでのリアルタイム処理では、データの破損や損失がシステムのパフォーマンスや信頼性に深刻な影響を及ぼす可能性があります。 車載や産業オートメーション、スマートヘルスケアなどの遅延が許されないアプリケーションにおいて、リアルタイムのデータ処理や応答が期待されています。
ワイヤレスコネクティビティにおけるルネサスのイノベーション
ルネサスは、このような課題に対応するため、拡張性の高い3つのコネクティビティ戦略を立案しました。
- 超低消費電力アーキテクチャ: チップ設計、パワーマネジメント、通信プロトコルの革新により、性能を損なうことなく消費電力を最小化
- ローカライゼーション&アイデンティティ: エッジデバイスのデータインテグリティを保護し、データセキュリティを強化する優れたパフォーマンスを提供
- ソフトウェア: ルネサスのマイコン用に提供されているFlexible Software Package (FSP)や、Matter、Threadなどの組み込み用通信規格、ThreadやZephyrのRTOSなど、包括的なソフトウェアを提供
リアルタイム分析やセキュリティ、コネクティビティ管理など幅広くサポートすることにより、お客様の市場投入までの時間を短縮し、当社の成長予測を実現できると確信しています。
ルネサスの強み
2024年5月に開催されたルネサスのキャピタルマーケットデイで投資家の皆様に説明した際、私たちのコネクティビティソリューションの強みについてポイントを挙げました。
当社の低消費電力アーキテクチャは、同クラスの他社品に比べ、消費電力を最大50%削減できるものもあります。例えば当社のWi-Fi製品の一部は単3電池2本で2年以上、Bluetooth LE製品の一部はボタン電池1つで10年以上動作するものもあります。これにより、製品寿命を延ばし、メンテナンスコストを削減し、お客様の持続可能性目標を促進します。これほど低消費電力にもかかわらず、ルネサスのワイヤレスコネクティビティ製品は、エッジイノベーションを促進する性能を発揮します。当社のUWBソリューションは、特にノイズの多い環境において、他社比で最大2倍の干渉に対する堅牢性を実証しています。また、コネクティビティと、マイコンやパワーマネジメントを1つのパッケージに統合することで基板のレイアウトを簡素化し、複雑な整合回路を不要にします。これによりお客様のプリント基板サイズを最大30%縮小することで、総所有コストを低減します。低消費電力、性能、コストだけでなく、ソフトウェア、開発ツール、リファレンスデザイン、ウィニング・コンビネーションなど、使いやすい開発エコシステムを構築することで、ルネサスはお客様の開発期間を短縮し、市場投入までの時間を短縮するためのワンストップショップを提供します。
ルネサスの コネクティビティの展望
コネクティビティ部門が新たに立ち上げる最初のキャンペーンは、「エッジでつながる健康、フィットネス、ケア」です。これには、Reality AI社の買収により実現した、ローカライズされたAI処理が含まれます。
- プライバシ: 機密性の高い患者やユーザの医療データおよびバイオメトリックデータを保護
- パーソナライゼーション: ライフスタイルと代謝データに基づいてユーザプロファイルを生成
- 最適化: 必要なデータのみを医療従事者に転送することで電力を削減
- リアルタイム操作: クラウド処理特有の遅延なしに、命を救える可能性のあるデータをリアルタイムに分析
このような強力な技術的差異化要素を備えたルネサスのコネクテッドヘルス、フィットネス、ケア製品は、さまざまなユースケースをサポートします。ルネサスのBluetooth LEソリューションは、継続的なグルコースモニタなどのヘルスケア機器の部品点数を減らし、スペースを節約するために多くの機能を統合します。コネクテッドヘルス・スマートリングの設計者は、ルネサスのシングルチップNFCソリューションにより、より高速で堅牢な接続性とワイヤレス充電を実現し、睡眠パターン、心拍数、体温などの健康指標を監視することができます。また、EMCフィルタを排除し、アンテナ設計を簡素化することで、さまざまなサイズのスマートリングに対応する単一の充電器を開発することができます。ルネサスのAIを搭載した人工膵臓向けソリューションは、インスリンポンプやポッドなどのデバイスの低消費電力処理用に設計されています。また、AIを搭載したスマートインソールソリューションは、ツボ、歩行ダイナミクス、バイオメカニクスなどの豊富なデータを収集・分析し、歩行や足の健康の異常を相殺するインソールのパーソナライズ設計に役立ちます。
ルネサスのコネクティビティ・ソリューションは、消費電力の低減、優れた性能、そしてコスト削減という主要な3つの技術で特に優れています。これにより、ルネサスは市場機会を拡大し、エッジの未来を定義する信頼性が高く効率的にコネクティビティを実現する企業として、成長への明確な道筋を確立します。